当初の犯行計画では、「だれでもトイレ」に女児と一緒に入り、わいせつ行為を犯すものの性犯罪だと感づかれない程度にとどめ、女児が被害に気づく前に解放するつもりだったのだろう。監視カメラに自分の顔が捕らえられたとしても、犯行が発覚しない以上、録画映像が見られることもない。犯人はそう思っていたに違いない。
ところが、トイレまで子どもを探しに来るという想定外の展開に慌てふためき、計画に反して殺人へと至ったのだ。
トイレを安全な「入りにくい場所」にするための戦略は「ゾーン・ディフェンス」である。そして、その戦術は「ゾーニング(すみ分け)」だ。ゾーニングは、互いに入りにくい状況を作る基本原理なのである。
ゾーニングの発想に乏しい日本のトイレ
次の図は、日本と海外の公共トイレのよくあるパターンを比較したものである。ゾーニングの優劣を確認していただきたい。
日本のトイレは通常、三つのゾーンにしか分かれていない。男女専用以外のゾーンには「だれでもトイレ」などと名付けられ、身体障害者用トイレは男女別になっていない(入りやすい場所)。
前述したように、熊本女児殺害事件(2011年)の殺害現場も「だれでもトイレ」だった。日本でゾーニングの発想が乏しいのは、「何事もみんなで」という精神論がはびこっているからかもしれない。
これに対し、海外のトイレは通常、四つのゾーンに分かれている。日本と異なり、男女別の身体障害者用トイレが設置されることもあれば、男女それぞれのトイレの中に障害者用個室が設けられることもある。
利用者層別にすみ分けされ、犯罪者が紛れ込みにくい「入りにくいトイレ」は安全である。
例えば、韓国・天安駅のトイレは、ゾーニングがしっかりできている。
写真の左手前から男子用、女子用、右手前から男性身体障害者用、女性身体障害者用、と四つのゾーンを設けている。しかも、被害に遭いやすい女性のトイレは、男性がスッと入り込むのを防ぐため、奥まったところ(入りにくい場所)に配置されている。
海外では、男子トイレの入り口と女子トイレの入り口が、かなり離れていることも珍しくない。入り口が離れていると、男の犯罪者が女性を尾行して、女子トイレに近づくだけで目立ち、前を行く女性も周囲の人もおかしいと気づくからだ。