「中国が豊かになればいずれ民主化する」は大失敗
アメリカのリベラリズムに基づく戦略は、経済においても、失敗に終わりました。
冷戦終結後のアメリカは、WTO(世界貿易機関)の設立を主導し、中国の加盟に協力しました。
中国をリベラルな国際経済秩序に組み入れ、自由貿易の恩恵を享受させれば、中国は豊かになり、いずれ民主化するだろう。
リベラリズムを信じるアメリカのエリートたちは、このように考えていたのです。
しかし、2001年にWTOに加盟した中国は、急速に経済を成長させただけではなく、経済成長率を上回る比率で、軍事費を増加させ続け、軍事大国になってしまいました。
その結果、東アジアにおける軍事のパワー・バランスは、完全に崩れてしまったのです。
今や、中国の軍事力は、アメリカ、そして日本にとって、大きな脅威となっています。
自由貿易はむしろ米中対立を招いた
また、中国がWTOに加盟した結果、中国から安価な製品がアメリカに流入し、アメリカの労働者の雇用が失われるという事態になりました。
著名な経済学者デイヴィッド・オーターが共同研究者らと共に2016年に発表した研究「チャイナ・ショック」によると、1999年から2011年の間に、中国からの輸入によって、アメリカの雇用がおよそ240万人も失われたといいます。
その結果、アメリカ国民の不満と反中感情が高まり、中国に雇用を奪われていると訴えたドナルド・トランプの当選を後押ししました。
そして、トランプ政権やその後のバイデン政権は、中国との対決姿勢を鮮明にしたのです。
リベラリズムによれば、自由貿易は平和をもたらすはずでしたが、アメリカと中国は、自由貿易の結果、経済だけではなく、軍事においても対立するに至ったのです。