「西側諸国の善意」がウクライナを戦禍に巻き込んだ

西側諸国からすれば、ウクライナの平和と民主化という善意からやっていることであって、ロシアの安全をおびやかそうという意図はないのかもしれません。

しかし、それは、あくまで西側諸国のリベラリズムの価値観に基づく見方に過ぎません。

ロシアからすれば、ウクライナが西側陣営にくみすることは、安全保障上の脅威にほかならず、絶対に阻止しなければならないことでした。

だからプーチンは、ウクライナに侵攻したのです。

中野剛志『奇跡の社会科学』(PHP新書)
中野剛志『奇跡の社会科学』(PHP新書)

欧米諸国のリベラリズムの善意が、かえってウクライナを戦禍に巻き込んでしまったというわけです。

第1次世界大戦後の国際連盟の構想も善意に基づくものでしたが、国際政治の現実を無視したがために、2度目の世界大戦を引き起こしました。それと同じです。

リベラルな世界をつくりたいという善意に基づく政治が、かえって逆の結果を招く。これは、100年前の戦間期から得られたはずの教訓でした。

なぜ、我々は、この歴史の教訓から学ばず、同じ失敗を繰り返してしまったのか。リアリストたちは、そう嘆くでしょう。

しかし、カーが『危機の二十年』で述べたように、人間は、本質的に、非現実的な理想や願望に駆り立てられて動くものです。リベラリズムには、たとえそれが非現実的であっても、人々を動員し、政治を動かしてしまう力があったのでしょう。

ユートピアの実現を目指して行動し、リアリティの壁にぶつかって失敗する。

リベラリズムを目指した政治を行って、リベラルではない結果を招く。

それを繰り返すのが、国際政治というものなのかもしれません。

〈参考〉E・H・カー、原彬久訳『危機の二十年 理想と現実』(岩波文庫)

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