いまさらながら後悔していること
集合が締め切られ、いよいよ抽選である。数分で順番が回ってきた。
パソコンにつながれた青いボタンを押す。えい! 50番以内よ、来い!
結果は「238番」。ダメだこりゃ。
男が待つ場所に急いだ。
ファミマの前には、バスタで勧誘してきた男以外にも3人が立っていた。
みな一様に根暗な雰囲気だ。年齢はたぶん20代なので、俺と同世代だろう。誰も口を開こうとせず、無表情にスマホを眺めている。打ち子なんてコワモテの兄ちゃんがやるもんだと思ってたけど、案外そうでもないらしい。
「ちょっと待っててくれます?」
例の男が、彼ら3名と金のやり取りをしながら話しかけてきた。どうやら軍資金の受け渡しのようだ。
ようやく、俺の方にやってきた。
「あー、来てくれて助かったよ。他にも何人かバスタで誘ったけど、みんなダメでね」
やっぱり、俺以外にも補充していたのか。
「じゃあ、まずは番号を見せて」
言われるがまま、「238番」と書かれた紙を見せる。
「あちゃー、ダメだったね。ビギナーズラックを期待したんだけど」
はいはい。とりあえず抽選したんだから引き子のバイト代をくださいな。
「うん。バイト代と一緒に軍資金を渡すよ。ただし、念のため身分証の写真を撮らせてくれる?」
は? なんだよそれ。
「お金を持ち逃げされちゃうこともあるし、大事なデータもあるから。念のためにね」
クソ、聞いてねえよ。しかも、抽選の番号が悪かったから強気に出てやがるだろ。こりゃバイト代を受け取ってから番号を見せるべきだった。
まあ、俺の立場は弱いから仕方ない。免許証の写真を撮らせてやろう。
パシャパシャと撮ってもらって、ようやく引き子バイトの1500円と軍資金の2万を受け取った。はあ、名前も住所もバレちゃったよ。マジで悪用されないか心配なんですけど。
奇妙に感じた手配師からのアドバイス
「今日、野村君に打ってもらいたいのは「凱旋」。今日は○日だから、台番の末尾が○のやつにして」
おっ! 知ってるぞ。「凱旋」ってのは、今一番の人気台「ミリオンゴッド 神々の凱旋」(編注:規制により現在はホールから撤去)の略称だ。これなら打ったことがあるから大丈夫だ! たしか特別な技術は必要なく、分かりやすい台だったはず。
末尾がどうこうってのは、どうやらここのマルハンは日付けと台番(台の通し番号)に関係があるらしく、これが共通してると当たりやすく設定されてるらしい。ま、真偽はわからんが、打ち子の俺には関係ない。
「じゃあ、そろそろ入場だから、動きがあったら逐一ラインで連絡を入れてください」
「はい。わかりました」
「それと、なるべく台の演出を楽しみながら打ってくださいね。店員に悟られたくないので」
当たっても一切リアクションをせずに、同じペースで打ち続けていると、打ち子だと目をつけられることがあるらしい。
本当に店員がそこまで注意してんのか? 考えすぎだろ。