5000回以上のトライアル&エラーを続けたサイクロン掃除機の開発

その次に手掛けたのが、サイクロン掃除機の開発だった。使用と共に性能が低下していく、従来の掃除機に不満を持ったことがきっかけだ。掃除機を分解し、紙パックがゴミで目詰まりして吸引力が低下することが原因だと気づいた。工場に備え付けられていたサイクロン装置から閃き、紙パックを使用せず、「デュアルサイクロンテクノロジー」と呼ばれる遠心分離技術によって吸引力が衰えない新しい掃除機の開発に乗り出した。

1978年から開発に着手するも、サイクロン掃除機の試作機を仕上げるまで、実に5年間を要した。その間に作った試作機の数は5127機にのぼるという。5年がかりで仕上げた試作機と設計図を手にライセンス提携先を探すが、イギリス国内でも欧米各国でも相手にしてもらえなかった。そんな中、救世主となったのが、新しいデザインとテクノロジーに関心を持った、日本の輸入商社エイペックスだった。ようやくライセンス提供にこぎつけ、世界初のサイクロン掃除機「Gフォース」を日本で発売することができた。

発売当初は、掃除機の吸引力をアピールしてもなかなか売れなかったが、発想を変えて「紙パックのいらない掃除機」として売り出すと徐々にヒットしていった。その成果を受け、1993年、イギリスでダイソン社を創業し、自社工場を立ち上げて自社ブランド「DC01」を発売した。これがイギリスで大ヒットし、保守的なイギリスの人々から革新的な商品として認められた。その後、世界の掃除機市場を席巻していったのはよく知られている通りだ。

サイクロン掃除機を生み出すまで5000回以上のトライアル&エラーを続けたダイソンのマインドは、今でも変わらない。すべての技術者が「もっと良い方法があるはず」という視点を常に持って、失敗を恐れずに研究開発に取り組んでいる。「失敗がなければ成功はない」と公言し、株式市場にあえて上場しないことで、短期的な利益追求を望む投資家の意向を気にせず、研究開発へ多額の投資を続け、未来のイノベーションを開拓し続けている。

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