②ユニクロ物語:未知数だったスポーツウェアを成功に導いた数々の挑戦

ユニクロは、テニスという競技人口の多いグローバル・スポーツで世界4位まで上り詰めた、日本スポーツ界を代表するアスリートである錦織圭選手と2010年から契約を結び、スポーツウェアの本格的な開発に乗り出した。

ユニクロの新店舗ニューヨーク市
写真=iStock.com/carterdayne
※写真はイメージです

ユニクロにとって、スポーツウェア開発は未知数な部分が大きく、当初は苦難の連続だったという。最初に試作したTシャツは、汗を吸うと色がにじんでしまった。錦織選手との契約後初のウィンブルドン選手権では、クリーム色がかったショートパンツが、ウィンブルドン特有の「純白色」に厳しいドレスコードで厳しく審査され、なんとか着用は許されたものの肝を冷やした。

トップアスリートの希望に応えるため、商品開発の挑戦が続けられた。「汗でウェアが肌にくっつくと、パフォーマンスの低下につながる」という錦織選手の希望に応えるため、数グラム単位の素材の軽量化に取り組み、身体にストレスを与えないウェアとして、速乾性に優れた「ドライEX」素材が開発された。他にも、試合中にタオルを取りに行かなくても汗を拭けるように水分吸収機能を突き詰めたリストバンドや、ポケットからボールを取るときに自然と手の汗が吸収されるようにポケットの内側の素材をタオル地にしたショートパンツなどが開発された。

特に苦労したのは、ソックスの開発だった。足に直接触れるソックスは、フットワークに影響し、選手にとって最もデリケートな部分と言える。ユニクロが最高品質の糸で自信を持って開発した試作品に対する錦織選手の反応は、「少し滑りすぎる」という否定的なものだった。ソックスが、シューズのインソールとの間で滑ることが問題視されたのだ。その後、1年間、100種類に及ぶ試作品開発の結果、錦織選手が最も高く評価したのが「1番加工していない、低ランクの糸で作られたソックス」だったことは、ユニクロを驚かせた。

ソックスに使う糸は、細かい繊維を焼いて艶を出すなど、複数の加工工程を経て「良い糸」にするのが常識とされていた。しかし、その加工こそが、ソックスが滑る原因になっていた。「加工しない糸の方がスポーツに適している」という発見は、トップアスリートの声で初めて気づけた、モノづくりの新発見だった。

錦織選手に「完璧に応えてくれる」と言わしめるユニクロのモノづくり

こうしたユニクロの商品開発は、錦織選手から「完璧に応えてくれる」と信頼を集めており、ユニクロが掲げる「Life Wear(あらゆる人の生活を、より豊かにするための服)」というコンセプトを実現するモノづくりに役立てられている。

ユニクロのスポーツウェア開発における「苦難を乗り越えた成功」の物語を知ったことで、商品への信頼感が高まったのではないだろうか。