教団への憎悪を募らせる

数日後、審理委員会から結果が通達されたが、桜木さんは、まさかの“お咎めなし”。

しかしトップはこう続けた。

「今回の件はMさんが瞬さんを誘惑したことが問題の発端と考えます」

びっくりして桜木さんは反論する。

「違いますよ⁈ 告白したのも、デートに誘ったのも、手を出したのも私からです! 先日そう話しましたよね?」

だがトップは、「そうさせてしまったMさんに問題があると、私たちは判断しています」と聞く耳を持たない。

桜木さんは、音を立てて自分の気力がなえていくのを感じた。

「トップは狂信的な信者。人として良識のある回答を求めても無駄でした。おそらく、私の父親がトップのひとりだから、もみ消そうと根回ししたのでしょう。『もう嫌だ、もうたくさんだ』と思いました」

その次の集会で、Mちゃんに与えられていた責任ある役割がすべて別の人に変わったことが発表されていた。

帰宅するなり桜木さんは、「親父! Mちゃんの裁定、親父が口出したんだろ⁈」と言って父親に食ってかかる。

「私は父親だから今回の件はノータッチだ。審理委員会でちゃんと真実を話したんじゃないのか? お前は自分が悪いと認識しているなら、これ以上Mちゃんに迷惑をかけるな。相手は18歳だぞ。男ならキッパリ結論出せ」

正邪を測るはずの天秤
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桜木さんは、これまで事あるごとに「信者なら○○しなさい!」と言ってきた父親が、初めて「男なら」と言ったことに驚いた。

「父が絡んでないなら、父に対するトップたちの媚び売りだったのでしょう。私とMちゃん、いなくなるならどちらが教団の被害が小さく済むか、天秤にかけたんだと思います。これが神の組織のやり方です。それでも、私のせいでMちゃんがつらい立場にあるのは耐えられませんでした……」

桜木さんは、信者を辞めることを決意し、Mちゃんに別れを告げた。