脱会を決意し、教団へ逆襲した
それから桜木さんは転職。集会や奉仕活動に出ない口実を作るため、シフトを入れまくり、仕事の後は同僚たちと飲み歩く。禁止されているタバコを吸い、車を改造し、聖書や教団の書籍を処分。自分が講演する日だけは集会に行き、自分の言葉だけで、二世に向けた話をした。
約2カ月が経った頃、父親がトップを降りた。めったに来なくなった桜木さんが、たまたま来た集会で発表されたのだ。桜木さんを悪者に仕立てようとする教団の魂胆が見え見えだったが、桜木さんの決意を揺るがせるには十分だった。
しかしその日、別れたMちゃんと偶然コンビニで再会。
「いろいろやってるみたいじゃん。お母さんから聞いた。他の人はどうだか知らないけど、私は応援してるから頑張って! 早く彼女作りなよ!」
と笑って手を振る。
桜木さんはMちゃんに背中を押され、揺らいだ心が定まった。
次の集会の日、桜木さんの両親と姉は出張のため不在。家族の制止が入ることは避けたかったため、この日を選んだ。集会後、その日の講演者に感謝や感想を言うために列ができる。桜木さんもその列に並んだ。そして順番が来る。
「講演ありがとうございました。どうしても聞きたいことがあります。Mちゃんの件で、私がしたことなのに、彼女が責任ある役割から降ろされていたのはなぜですか?」
他の人にも聞こえるように声を張る。すると慌てる講演者。
「瞬さん! 皆さんがいるので第2会場で話を聞きますから移動を……!」
「皆さんに聞かれたらマズイんですか? それは裏でマズイ取引があったってことですか? 組織とあなた方の裁定で苦しんでいる人がいるんです! 悔い改めると言った人が役割から降ろされて、行き場を失うのは納得がいきません! 神の組織が聞いて呆れますよ!彼女だけ無慈悲に降ろされた理由を皆さんの前で説明してください。できないのなら私もすべての役割から降ろしてください!」
講演者は絶句。代わりにトップが出てきて、
「それに関してはトップで話し合いの機会を設けますから……」
と騒ぎを収めようと必死だ。
「不幸な人を生み出す話し合いなんていりません! 今結論が出せないなら、私はすべての役割から降ります! 以後の手続きは適当にやって下さい! 神の組織でどうして不幸な人がいるんですか!? あんたらのせいで彼女は来れなくなったんだよ!」
いつしか桜木さんは泣いていた。すると、Mちゃんの母親が近くに来て、「瞬君、ありがとう。もう娘は大丈夫だから」と声をかけた。桜木さんは、「お母さん、Mちゃんのこと、本当にごめんなさい……」と頭を下げた。
「さよなら」
そう言って玄関へ足を向けると、講演者が「瞬さん! もう一度話し合いませんか?」と駆け寄ってきたが、「もう遅えよ!」と振り払って出ていった。これが、桜木さんが信者として活動した最後の日となった。