「鉄道員」だけの仕事はどんどん減っていく
すでに車掌と企画などの事務部門を兼務する社員が誕生しており、2021年5月30日付日本経済新聞(電子版)は、横浜支社の企画部門に所属する女性社員が週に一度、朝8時から10時半まで車掌として乗務し、その後は支社で荷物輸送の企画業務に携わっている事例を伝えている。
こんな短い時間だけ乗務する必要性はあるのかと思うかもしれないが、要員的には重要な意味を持つ。というのも鉄道運行において人員を最も要するのは運転本数が最大の朝ラッシュ時間帯だが、そのためだけに乗務員を確保するのは効率が悪い。
そこで要員1に対して専任乗務員を1人置くのではなく、5人の兼任乗務員が「朝ラッシュ限定の助っ人」として0.2ずつ引き受けることで、要員に対する社員数を削減することができる。兼任で安全・安定輸送の維持は可能かという批判はあるだろうが、考え方としてはそういうことだ。
このような生産性向上という名を借りた労働強化を伴う「新たな働き方」により鉄道事業を効率化し、余剰人員を不動産などの成長分野に振り向ける。現場社員は複数の業務を兼任する過酷な鉄道事業か、畑違いの非鉄道事業にジョブローテーションで送り込まれる、というのが現場社員の恐れる「最悪のシナリオ」だ。
そもそも国鉄時代の社員が多すぎた
JRは発足以来、鉄道運行に必要な人員の削減を進めてきた。JR東日本の会社要覧によれば、2002年(4月1日現在、以下同)の系統別社員数は、駅員などが1万3440人、車掌が6030人、運転士が7170人だった。これが2019年(2020年以降は非公表となった)は、駅員などが1万530人、車掌が5600人、運転士が7360人となっており、駅員が約3000人削減されたことが分かる。
JR発足時まで時計の針を巻き戻せば、約7万1800人いた鉄道現業職は35年間で3万4000人まで減少した。これは自動改札機導入などの省力化、保守作業の省メンテナンス化などの合理化を進めた結果だが、そもそも国鉄から本来必要な人員を大きく上回る職員を継承したという事実は無視できない。
多すぎた国鉄採用の社員は年を経るごとに定年退職していく。新規採用者数は常に退職者数を下回ったので、社員は自然と減っていった。4000人削減と聞くとインパクトが大きいが、2017年に3万9890人いた鉄道現業職は、2021年には3万5640人となっており、実は過去5年ですでに4200人減っているのだ。