「鉄道を支えるプロ」から「地域社会に貢献する人材」へ
今後はこうした働き方が当然のようになっていくのだろう。ここまで便宜上、彼らを「現業職」と書いてきたが、もはやそのような表現では業務の一面しかとらえることはできなくなる。
JR東日本は今後の現業機関のあり方について「お客さまに近い現業機関に権限を委譲し、これまで専ら鉄道の運行に関する業務に従事してきた現業機関の社員が、系統を超えた業務や企画業務に携わる体制」を目指すと説明している。
事実、JR東日本は2020年度採用から、従来「鉄道を支えるプロとして、地域に密着し、現場第一線で活躍」するための職種としてきた「プロフェッショナル採用」を、関東・甲信越、東北の各エリアを軸に、地域社会の発展に貢献する人材としてマネジメントに携わる「エリア職」に改めた。
今後、入社する若者たちは多様な働き方に魅力を覚えるかもしれない。また、そうした適性を加味した採用が行われるのだろう。だが、これまで「鉄道を支えるプロ」として採用され、従事してきた社員が戸惑うのは無理もない。
業界の働き方を根底から変えるかもしれない
鉄道は長らく人海戦術による「労働集約型産業」として運営されてきたが、民営化を背景とした効率化・高付加価値化と、今後の人手不足への対応から、少数の従業員が機械や設備を駆使して価値を生み出す「資本集約型産業」へと姿を変えており、さらに非鉄道部門を開発・成長させるために、社員に「知識集約型産業」としての役割を求めていこうというのである。
現在のところ、こうした動きはJR東日本の他には見られない。組合が事実上機能していない同社だからこそ可能な話で、それ故に危うさも感じさせるのだが、「鉄道員」のあり方を根底から変えるかもしれない壮大な「実験」に興味がないと言えば嘘になる。
というのも、JR東日本のように非鉄道部門まで兼務させようとするかは別として、コロナ禍による収益構造の変化や少子化による働き手不足に対応していくためには、程度の差はあれ、どの事業者も社員のマルチタスク化、業務の高度化を進めなければならないことに変わりはないからだ。それがどのように受け入れられ(あるいは受け入れられず)、どのような成果を生み出すのか、各事業者の経営層も大いに注目しているはずだ。
もっとも現場の問題は「実験」では済まされない。鉄道は良く言えば経験工学、悪く言えば前例主義で、ドラスティックな改革には副作用が大きい。現場の仕組みを大きく変えれば、元に戻すのは容易ではなく、安全やサービスに影響を及ぼしかねないからだ。JR東日本には功を焦らない慎重さと、問題の予兆があった際はすぐに改める謙虚さを求めたい。