はかま姿で中国の人気曲を歌う異例の動画

妄想を働かせて前例踏襲主義を打破したり、多くの自治体を巻き込んで新たなムーブメントを起こしたりしている中村。明らかに型破りである。今でも商社マン気質を堅持しているからだろう。

実際、世界を相手にする商社マンよろしく、世界を飛び回っている。知事就任から10年余りでインドを除いてアジア主要国をすべて訪問。7月末には県内の経済人80人前後を引き連れてベトナムへ飛び、トップセールスを行った。

9月初めに愛媛県が発表したPR動画が斬新だ。知事が自ら出演するミュージックビデオなのである。

愛媛県のユーチューブ公式チャンネル上では「~歌唱編~知事と中国人歌手・叶里さんが夢の競演!」とのタイトルが躍っている。動画の中で中村は何とはかま姿でマイクの前に立ち、中国の人気歌手・叶里(イエリー)と一緒に彼女の代表曲を中国語で歌っている。

愛媛県はPR動画を中国で配信し、中国の大手EC(通販)サイト経由で県特産品の拡販につなげたい考えだ。日本の地方自治体が営業目的のPR動画を外国のECサイト向けに制作するのが異例であるならば、首長が自ら営業マンになり切ってPR動画内で外国語の歌を熱唱するのも異例だ。

県庁・営業本部の売上高は230億円

県庁内には知事の肝いりで立ち上がった異例の組織もある。「営業本部」だ。地方自治体が営業専門部署を設けるのは珍しい。少なくとも10年前の発足時点では全国の自治体で初のケースだった。

いったい営業本部は何をしているのか。70人前後の職員が営業マンとなって国内外を飛び回り、県内の中小企業を対象に販路拡大支援を行っている。年間売上高――営業本部経由で地元企業にもたらされる追加的売上高――は営業本部発足時に8億円だったのに、今では230億円近くに達しているという。

リーダーが型破りであれば部下は戸惑い、軋轢あつれきも生まれる。失敗した場合のリスクも大きい。だが、中村は気にしていない。「リスクがないところに発展はないと思っていますから」