夏の8キロ水泳で学生たちを襲うある海の生き物
1学年の登竜門は、夏季休暇の前に行われる横須賀走水沖を泳ぐ8キロ遠泳である(写真)。毎年平均で6時間ほど、約50人1チームで、平泳ぎでゆっくりと泳ぎ切る。
平泳ぎ8キロというと尋常ではないが、それぞれにバディがいてお互いを励まし合いながら、1チーム全体で一番遅い学生に合わせて泳ぐ。また、ベテランの指導官や助教たちが数隻のボートでグループの安全を確認しながらフォローする。昼食時には乾パンなどの食料をばら撒き、学生たちは鯉のように口をパクパクさせながら泳いでいる。
私たち首脳陣は機動艇に乗って、遠泳中の学生たちに近づいて、拡声器で「がんばれ」と声援する以外に何もできない。赤クラゲに悩まされている学生を見て、「クラゲに食われるな、クラゲは食う物だ」などと余計なオヤジ・ギャグまで叫んでしまって、今では反省している。
なぜほぼ全員が泳ぎ切ることができるのか
まったくの金槌でも、また海を見たことのなかった留学生ですら、ほぼ全員が泳ぎ切るのだ。なぜか。
ベテランの自衛官たちが泳法を懇切丁寧に教え込み、水に対する恐怖心を取り除くことから徹底訓練していくからだ。泳ぎの得意なチームが先に泳ぎ始め、徐々に不得意チームとなっていく。最後は、どうしても泳法を十分に習得できなかった少数のグループだ。
ただ彼らに対する声援が一番大きい。実は、4月に防大に子供を送り出した1学年の親御さんたちが、全国から多数応援に来ている。わが子は大丈夫だろうかと手を重ねている姿を見ていると、なんと微笑ましいことか。一人っ子時代、防大も時代の流れ、である。