突然の悪天候「3時間も同じところを泳いでいた」

遠泳はその日の天候に大きく左右される。あまりの荒天だと、延期となる。途中、潮や波が強いと、1時間あるいはそれ以上、同じところを泳いでいることもある。

遠泳はこれまで一人も深刻なケガ人や、ましてや犠牲者を出したこともない。ただ、今だから言えるが、私は遠泳の最中に「解任」や「辞職」の文字が頭をよぎったことがある。

ある年の遠泳でのことだ。午前中の天候はまだ良かったが、午後になると突然に荒天となり、波と潮が強くなり、雨が降って視界も悪くなった。昼時で一時的に校内に戻っていたのだが、訓練部が急に慌ただしくなり、事件発生の通知あり。二人の学生が行方不明とのこと。

そこはさすがに自衛隊組織、一瞬にして対策本部が設置され、当時の岸川公彦幹事(副校長)を中心に強力な指揮命令系統が出来上がり、幹事の檄が部屋中に響き渡る。すぐに対策協議が始まり、「遠泳中止」を決定、全員を船に引き上げるよう伝達。

後でわかったが、二人の学生は遅れて後ろのグループに吸収されたとのこと。「二人を見つけました、大丈夫です」との連絡を受けたときは、部屋中に歓声がこだまし、表では気丈に見せていた私も力が抜けた。2021年3月の卒業生(65期)がまさに1学年のときのことだが、モンゴルからの留学生と話していたら、「あのときは3時間も同じところを泳いでいたんですよ」。

防大生活4年間で1番楽しい訓練

2学年以降は基本的に陸・海・空に分かれて訓練を行うが、共通訓練もある。2学年次は冬場に妙高高原でスキー訓練を実施する。これが4年間で一番楽しい訓練だと多くの防大生が言う。

スキー訓練も練度によって班を分け、自衛隊のスキー上級者を教官に丁寧に教えてもらう。さすがに運動神経の良い防大生たちの上達度は目を見張るほどだ。東南アジアから来た留学生のほとんどは雪を見たことがないので、最初は大変だ。しかし、数日後にはメキメキと腕(足)を上げる。

校長も毎年参加したが、過去に一度もスキーをしたことがないので使い物にならず、下手にやって骨折でもしたら大変な迷惑をかけるので、もっぱらゲレンデで滑降してくる学生たちを激励し、一緒に写真に収まる程度のことしかできなかった。学生たちはいくつかの民宿に分かれているので、各宿泊先を激励に回ったが、小原台では見ないような明るい笑顔でみんなウキウキ、普通の若者に戻っている。