“ドル箱路線”で穴埋めする方法が通用しなくなった

ローカル線の赤字はこれまで、新幹線と首都圏の生み出す莫大な利益で穴埋めされてきた。これを内部補助という。ところがコロナ禍で鉄道利用が激減し、運輸セグメントは2020年度が5324億円、2021年度が2853億円の営業赤字に転落。今年度第1四半期(4~6月)決算では、ようやく156億円の営業黒字に回復したものの、これまで通りにローカル線を支えていくのは困難である。

さらに山間部を走るローカル線は激甚化する災害の影響を受けやすい。東北地方では8月の豪雨で磐越西線、米坂線、五能線で大きな被害が生じており、復旧には数十億単位を要するとみられる。これだけの費用をかけてでも復旧するのかが問われていくだろう。

JR発足から30余年を経て、ローカル線の利用が大幅に減少した要因はいくつかある。ひとつは人口減少だ。全国と東北6県の1985年~2020年国勢調査の年代別人口の減少率(カッコ内は15歳未満/15~64歳/65歳以上の各減少率)は次の通りである。

・全国 4%(△43%/△12%/183%)
・青森県 △19%(△62%/△34%/160%)
・岩手県 △16%(△57%/△31%/137%)
・宮城県 6%(△44%/△9%/197%)
・秋田県 △23%(△63%/△41%/126%)
・山形県 △15%(△53%/△31%/112%)
・福島県 △12%(△55%/△26%/131%)

政令指定都市仙台を擁する宮城県は全国平均に近い数字になっているが、それ以外は15歳未満が5割以上、15歳以上64歳未満(生産年齢人口)が3割前後減少していることが分かる。

定期外利用の減少が最大の要因

ローカル線の主要顧客は高校生だ。JR東日本は路線別の通学定期利用率を公表していないが、東北の旧国鉄線を引き継いだ三陸鉄道、阿武隈急行、会津鉄道、秋田内陸縦貫鉄道、由利高原鉄道、山形鉄道では、全利用に占める通学定期の割合は6社平均で33%、うち由利高原鉄道は4割以上、山形鉄道は7割近くに達する。

1985年から2020年にかけて通学利用が半減したならば、それだけで輸送密度は2割から4割減少する計算になる。しかしこれだけでは全体で5割から9割減少したことの説明にはならない。通勤定期利用も生産年齢人口に伴い減っているが、絶対数が少ないため影響は小さい。そうなると残る定期外利用の減少が最大の要因ということになる。

冬の福島県、只見線と只見川
写真=iStock.com/Torsakarin
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定期外利用に影響を及ぼしたと考えられるのが高速道路の整備だ。東北地方では、1987年4月時点の開通済みの高速道路は東北自動車道(浦和―青森間)だけだった。しかし、その後の35年間で、

・磐越自動車道(福島県いわき市―郡山市―新潟県新潟市)1997年開通
・秋田自動車道(岩手県北上市―秋田県秋田市)1997年開通
・山形自動車道(宮城県柴田郡村田町―山形県山形市―鶴岡市)2001年開通
・釜石自動車道(岩手県花巻市―釜石市)2019年開通

などの主要都市を結ぶ路線が次々と開業。さらに震災後は復興支援事業として下記の高規格道路も開通した。