高齢者は運転免許を返納したほうがいいのか。精神科医の和田秀樹さんは「高齢者が特に事故を起こしやすいというデータはなく、免許返納を求める根拠はない。高齢者から免許を奪うことは老いを一気に加速させ、生きる楽しみも奪ってしまうことになる」という――。
※本稿は、和田秀樹『老人入門 いまさら聞けない必須知識20講』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
高齢者にとって免許更新のハードルは高くなっている
70歳を過ぎると、運転免許の更新のたびに高齢者講習を受けなければいけません。
74歳までの前期高齢者で普通自動車免許所持の方は実車ありの2時間の講習ですが、75歳を過ぎた後期高齢者になると、この講習にくわえ、運転技能検査と認知機能検査が必要になります。
認知機能検査ではっきりと認知機能の低下が認められれば医師の診断書の提出や臨時適性検査を義務付けられ、そこでもし認知症と判断されれば本人がいくら希望しても免許は取り消しあるいは停止となります。
ところが現状はどうかといえば、まず高齢者講習は居住地に近い自動車教習所か試験場で受けることになります。膨大な層をなす団塊世代が該当しますから、この予約がなかなか取れません。後期高齢者に義務付けられている認知機能検査も予約制ですが、これもなかなか取れません。
コロナのせいもあって予約人数を制限している教習所もかなり多いといいます。高齢者にとって免許更新のハードルはだんだん高くなっているのです。
「返納したほうが…」と弱気になってはいけない
「何だか面倒くさくなってきたな」ついそんな気持ちになってしまう人もいるでしょう。
「あちこちの教習所に電話してもなかなか都合の合う日の予約が取れない。最近はたまにしか運転しないんだから、免許なんかなければないでやっていけるかな」
ふとそう考えてしまいます。
しかも講習通知書の裏面には免許返納の手続きの説明が印刷されてあります。
「そうか、身分証明書代わりの『運転経歴証明書』というのがあるのか」
あれこれ迷ってしまい、家族に「返納したほうが安心だよ」と言われると、つい弱気になってしまうかもしれません。