※本稿は、クーリエ・ジャポン編『ウクライナの未来 プーチンの運命』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。
古い戦争と新しい戦争は両立する
──21世紀の戦争は、サイバー攻撃戦略やAI搭載兵器に決定づけられ、より冷淡で暴力性が低いものになるだろうと、私たちは考えていました。ところが、ウクライナ侵攻においては、ロシアが航空支援を受けた地上戦という昔ながらの図式に倣っている様を私たちは目撃しています。
【ハラリ】テクノロジーは野蛮に対立するものではなく、たいていはそれと両立するものです。最も発達したテクノロジーは、野蛮な暴君に貢献します。さらに歴史においては、古いものと新しいものは両立するのが常です。
人々はこの戦争がサイバー戦争になるだろうと予想していましたが、私たちは、火炎瓶で攻撃される戦車を目にしています。もちろん、サイバー戦争も並行して展開されています。
プーチンの空想が生んだ悲劇
──プーチンは、ロシアの軍事作戦の目的は「ウクライナの非軍事化と非ナチ化」であると宣言し、ウクライナ軍がネオナチに指揮されているというクレムリンの主張に言及しました。
【ハラリ】プーチンは正気を失い、現実を否定しているのだと思います。この戦争すべての基本的原因は、プーチンが頭のなかで空想を作り上げたことにあります。「ウクライナは現実には存在しない、ウクライナ人はロシアに吸収されたがっている、それを阻んでいるのはナチ一派だけだ」というものです。
この妄想のせいでプーチンは、ウクライナを侵略した瞬間にゼレンスキー大統領は逃亡し、ウクライナ軍は降伏し、国民は花を持ってロシアの戦車を出迎え、ウクライナはロシアの一部に戻るはずだと考えたのです。
けれど、彼は完全に間違っていました。ウクライナは現実に存在する、非常に勇敢な国家です。ゼレンスキーは逃亡しませんでした。ウクライナ軍は猛烈に戦っています。そしてウクライナ国民は、ロシア戦車に向かって花ではなく火炎瓶を投げつけています。
プーチンはこの国の大部分を征服するかもしれません。でも、手元に留め、吸収することはできないでしょう。それこそが彼の目標ですが、達成することはできないでしょう。
彼はすでに戦争に負けたのです。