景色が変わると見方が変わる

では、どうやって気持ちを変化させるか。私にきっかけを与えてくれた場所は比叡山でした。

修行中、先輩に言われた「依心より依処」という教えがあります。正しくあろうとする気持ちも大切だけど、修行をする環境はもっと大事という意味です。気が散るものや、気になる人間関係に囲まれた自宅で修行をするのと、外部の情報が遮断され、人との接触も限られた深淵しんえんな地で集中してやるのとでは、その成果がまるで違ってきます。

今月のひとこと
依身より依所

「おのずから住めば持戒のこの山は まことなるかな依身より依所」は、最澄様が詠まれた歌です。これは、「修行には、自分自身が正しくあろうとすることが大切だが、それよりも、修行をする環境がもっと重要だ。この比叡山とはまことにその修行にふさわしいところで、住んでいるだけでおのずから戒律を守ることができ、人の感覚や意識のすべてが清らかになる」といった意味です。

介護がつらくて悩んでいる方に、「今から親を愛しいと思え」と言っても無理な話です。だからといって、「つらい」とばかり思っていても問題は解決しません。

そんな時は一度、冷静になるためにも環境を変えてみることをお勧めします。まずは携帯の電源を切り、パソコンやテレビから離れる。旅に出るのが難しいなら、緑の多い河原や公園でもいいし、近所の神社でもいい。そして、いま抱えている問題に集中するのです。

人間は、景色が変わると見方が変わるものです。

父はもうすぐ84歳になります。老人介護施設で暮らすようになってから2年が経ちますが、別々に生活するようになったことで、お互いにとっていい距離を保てるようになったように思います。施設の方は皆さんプロフェッショナルで、リハビリのプロもいます。父は今では杖をついて歩けるようになりましたし、昔の自慢話も皆さん優しく聞いてくださっているようです。環境を変えることは、本当に大切なことだと実感しています。現状を悲観しすぎず、皆さんにとって一番いい選択をしていただければと思います。

(構成=山脇麻生)
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