新卒採用はなく、各省のエースが出向していたが…

そんな内閣法制局の定員は七七名にすぎません。財務省や法務省など何万人もの人員を抱えている大官庁と比べるとはるかに小さい。ただし、特徴的です。

七七名のうち、内閣法制局の仕事の中心である意見・審査を行う職員を参事官といいます。他省庁では国家公務員試験合格者を採用して育てますが、参事官には他省庁から行政経験を積んだ者を迎え、新卒を採用することはありません。ただし、環境省と防衛省からは出向を受け入れていません。

さらに長官になるのは、法務省、財務省、総務省、経済産業省の四省の出身者が、第一部長→次長→長官という履歴を経て就任します。この人事慣行は戦後法制局が一九五二年に復活して以来、踏襲されてきました。例外は第二次安倍内閣で外務省出身の小松一郎長官が就いた時だけです。

影の権力を持つ法制局、さぞかし大勢の人が行きたがるかと言えば、実はそうでもありません。

たしかに昔は各省がとりわけ優秀な人物を送り込んでいて、参事官出向を命じられた当人も栄転として鼻高々だったらしいのですが、最近では「トップは出さずに、二、三番手あたりを出す省庁も多」く、あまりの激務に内閣法制局OBが「最も人気のない部署」と指摘するほどです。当の参事官にも「好んでやりたいとは思わない」と言われています(前掲『知られざる官庁 内閣法制局』八三頁)。

書類にサインをする人
写真=iStock.com/AmnajKhetsamtip
※写真はイメージです

2~3日の徹夜に耐えられるのが「不可欠な資質」

内閣法制局の激務ぶりについて、少し長いですが『知られざる官庁 内閣法制局』より引用します。

「一条三時間かけるから参事官というのだ」といわれるほど厳密な審査が展開される。その結果、年初から法案の閣議決定期限までの約三カ月のあいだ、それぞれ参事官はいくつもの法案を抱え、日曜、休日を返上して作業にあたることを余儀なくされる。
(中略)
期限があるため、深夜までやっても間に合わなければ、徹夜仕事となる。それゆえ、「徹夜の二日や三日やっても耐えられる」体力が、参事官としての「不可欠な資質」だと、内閣法制局幹部は真顔で指摘する。……(中略)……
当然、深夜業ばかりでは健康を害する。かつては、審査の途中で眼底出血を起こして入院したり、脳貧血で卒倒して頭を階段にぶつけてけがをしたり、といった事故があった。あるいは看護婦を付き添わせ、ビタミンを注射しながら徹夜で審査を続けた参事官もいたらしい。
いまでも、法案審査から解放される五月、六月には持病を悪化させる参事官は多い。「参事官」とは、忙しいときには三時間しか眠れず、暇なときは三時間だけ働けばよいという意味だ、との笑えない冗談もある。(『知られざる官庁 内閣法制局』一〇七~一〇八頁)

こんなところに入りたいと思うのは相当な変わり者です。