※本稿は、倉山満『検証 内閣法制局の近現代史』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
内閣法制局長官は「事務次官」よりも偉い
普通の官庁では、上には政治家が○○省大臣や△△庁長官にいても「お客さん」で、官僚のトップは事務次官です。ところが法制局では官僚が出世して、「長官」という事務次官より偉い副大臣級の職を得ます。閣僚ではありませんが閣議に出られます。
そんな内閣法制局はどんなところなのでしょうか。「法制局」というからには法律をあつかう局であることは明らかですが、具体的に何をする役所なのか。
昭和二七年に制定された内閣法制局設置法によると所掌業務が次のように規定されています。
【内閣法制局設置法】
(所掌事務)
第三条 内閣法制局は、左に掲げる事務をつかさどる。
一 閣議に附される法律案、政令案及び条約案を審査し、これに意見を附し、及び所要の修正を加えて、内閣に上申すること。
二 法律案及び政令案を立案し、内閣に上申すること。
三 法律問題に関し内閣並びに内閣総理大臣及び各省大臣に対し意見を述べること。
四 内外及び国際法制並びにその運用に関する調査研究を行うこと。
五 その他法制一般に関すること。
実は権限を持たない謎の官庁
第一項では、政府が出す法案や条約のすべてに関して意見を言う機関であるとしています。第二項では、内閣法制局が法律や政令を作る機関であることが書かれています。とはいうものの、「自分で作って良い」となっているだけで、基本的には他人の作った法案を添削するのが仕事です。
第三項は、法案以外にも法律問題に関して相談を受け、意見を述べることが示されています。第四項は法律の調査をすること。第五項は「その他」でまとめています。これらを「審査事務」「意見事務」と言います。
要するに「調べて意見を言う」だけです。実はこれといって特別な権限は何もないのです。
では、法的に定められた役割からは想像もつかないほど内閣法制局が強大な力を持っているのはなぜでしょうか。
法制局の強さの秘密は六つあります。
一、法律知識
太政官以来の法令がすべて頭に入っていて、やたら法律に詳しい人たちの集団です。法律の本というと素人は六法全書を思い浮かべます。分厚い本ですが、あれはダイジェストです。ダイジェストではない法律文書をそらで覚えている……。
もちろんすべての法律が頭に入っているなどということは考えにくいのですが、とにかく、そういう設定になっていて、実際に相当詳しい。