「秘密保持が同意書で徹底されているとは思えない」

6月6日の日本経済新聞電子版はその綿引氏のインタビューを載せているが、この中で同氏はこう発言している。

「取締役構成の多様性や公平性でバランスを欠いていると判断せざるを得なかった。東芝では2019年に投資ファンド推薦の社外取締役4人を迎えている。そこに株主から2人を新たに迎える。特定の株主に偏っていると批判されてしまう」

「東芝は株主間に利害対立がある会社だ。短期的利益を目的にする株主や長期保有の機関投資家、個人の株主など、それぞれの利害が全く違う。特定の株主を取締役に迎える以上、他の株主との利益相反を回避できるようにしないといけない。秘密保持を徹底することが不可欠だが、同意書で必ずしもその徹底が図られているとは言えない」

「たとえば、他の株主が接することができない非公開情報に、出身母体である株主が一定の条件下では取締役を介して接することができるようになっている。また例えば株式非公開化が進むときの再出資の禁止の条項でも、ほかの機関投資家との間で利益相反が生じかねない内容になっている」(日本経済新聞電子版6月6日)

ドラフト会議で一部球団が当たりくじを知っているようなもの

株主総会で株主から説明を求められた綿引氏は同じことを主張している。

「多くの株主から、今回の取締役候補が多様性、公平性、バランスの良さが満たされているよう見えるのか、若干問題を感じた」

「(大株主の業務執行者を社外取締役の候補者に迎えるにあたって結んだ合意書について)情報管理、潜在的な利益相反の回避等の問題点について、不足があると考えた」(日本経済新聞電子版6月28日)

綿引氏が特に問題視したのは後者、大株主の業務執行者を社外取締役に迎えるのに東芝が結んだ合意書(ノミネーションアグリーメント)にあるといわれる。合意書そのものは回りくどい。だからここでは紹介しない。代わりに誤解を恐れず、氏の主張をごく分かりやすく例えるとこういうことだといえるだろう。

プロ野球のドラフト会議で有望選手との交渉権を複数の球団が争ったとする。当然、くじ引きは公平であるはずだが、特定の球団が「交渉権獲得」と書かれた紙が入った封筒がどれなのかを知るすべを持っている。

そんな球団はもとより、そんなプロ野球を認めてよいのか。綿引氏はそうした問題提起をしたわけだが、アクティビストの幹部2人を含む13人の取締役は賛成多数で選任され、綿引氏は取締役を辞任した。