クリミア占領から生まれた妄想の物語

もし一言で、今回なぜロシアがウクライナを侵略したのかを述べろと言われれば僕は「NATO加盟問題など国際政治の背景よりも、プーチンが〈妄想の歴史観〉を背景に、ただウクライナを自分のものにしたかっただけ」と答えています。

これは僕の以前からの持論で、2月24日直後からメディアでも一貫して話していて、今でもその考えは変わりません。またそれは、フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟しようとしているのに、プーチン大統領やロシア政府が、対ウクライナのように軍事行動はとらず、ロシア西部に軍事基地を構築することを表明する程度であることからも、それは裏付けられます。

2014年のクリミア占領を通じた誤った成功体験が、東ウクライナへの軍事介入へとつながりました。一方、クリミア占領ほどはうまく進まず、ロシア国内への説明や自身の行動を正当化する手段として「東ウクライナのロシア語を話すロシア系住民に対するジェノサイド」が行われているというナラティブ(物語)が生まれ、今回の「ウクライナをナチスから解放する」との妄想へとつながっていったのです。

戦争は普通の人々を熱狂的な愛国者に変える

そして今、そのプロパガンダが拡散した結果、誤った「正義」を信じ切った多くのロシア国民を前に、「ウクライナの非ナチ化」という偽りの金看板を外すことすらできず、国内を沈静化させる術を失いつつあるようにも見えます。

実は、2月24日以降、僕が国内外のメディアで発信している姿をSNSなどで見たロシアの複数の友人・知人から「なぜウクライナのナチストの味方をするのか?」というメッセージが来ました。中には「恥を知れ!」的な内容もありました。

スマートフォンを握った抗議のイメージ
写真=iStock.com/oxinoxi
※写真はイメージです

悲しくなり「なぜナチスだと思うのか教えて」と返事すると決まってYouTubeにアップされたウクライナの極右勢力がナチス風の松明行進をしたり、暴れまわる様子が上手くまとめられたプロパガンダ動画のリンクが送られてきました。彼らは普段は極端なところは全くない「普通の人々」です。

この時、僕が子供のころ流行ったアニメ『機動戦士ガンダム』の中の「悲しいけど、これ戦争なのよね」というセリフを思い出しました。戦争は普通の人々を熱狂的な愛国者に変え「非友好国」民の言うことに聞く耳を持たないのも普通のことなのかもしれないなと感じました。