過剰な自粛は人命を奪う

私は今、まん延防止等重点措置などによる「自粛策」は、明らかに過剰で、不適切な政策だと思っています。

そして現在、そうした自粛策は「万病の元」であり、「自粛禍」は、新型コロナへの感染以上に「人の命を奪っている」とさえ思っています。

その理由をお話ししましょう。

私たちは、自粛生活のなか、多くの「自由」を失っています。友人・知人と自由に食事することすらはばかられ、そもそも彼らとの会話さえ不自由です。外で自由に運動することにも気がひけて、買い物も不自由です。子供を外で自由に遊ばせることができないし、実家に自由に帰省することもできず、老親にもなかなか会えません。コンサートや映画、スポーツ観戦に出かけることにも、制限がかけられることが多くなっています。

というように、自粛は、私たちから何事も自由だったコロナ禍以前の日常を奪い取っています。そのことが、人命を奪うことにつながるのです。

その犠牲ぎせいとなる人の多くは、高齢者です。

和田秀樹『マスクを外す日のために 今から始める、ウィズコロナの健やかな生き方』(幻冬舎新書)
和田秀樹『マスクを外す日のために 今から始める、ウィズコロナの健やかな生き方』(幻冬舎新書)

高齢者は外出を控え、自宅に数カ月引きこもるだけで、歩行機能が弱まり、自立歩行さえおぼつかなくなります。また、人と話さない暮らしが続くと、認知機能にんちきのうが衰えます。

そのような足腰、認知機能が衰える症状を「フレイル」と呼びます。フレイルは「虚弱」という意味で、正常と要介護ようかいごの間のような状態を指します。いったん、フレイルに陥っても、適度に運動したりすれば、元の状態に戻ることができるのですが、自粛生活のなかでは、それもままなりません。

外出しないことで、運動不足になり、筋力が衰えて転倒、骨折、要介護状態になったという人を、私はこの2年余りの間、多数見聞きしてきました。高齢者の自粛生活は、要介護状態への最短ルートとなるのです。

また、自粛生活のなか、買い物がしにくいと、栄養バランスのとれた食事をとりにくくなります。そして、糖尿病とうにょうびょうなどの持病を悪化させている人が少なくありません。これも、要介護を増やすことにつながります。

介護費用は4兆円増加する

今、日本の要介護高齢者は、要支援を含めて約700万人です。私は、自粛生活が続けば、今後数年のうちに、さらに200万人は増加することになると思います。すると、介護費用は年間4兆円増えます。むろん、死者も急増します。

しかし、テレビを含めたメディアは、そうした自粛禍について、まったくといっていいほど、報じません。今、テレビに専門家として出演するのは、感染症の専門家ばかりです。彼らは「外出を避け、ワクチンを接種しろ」とはいっても、フレイルや要介護予防については何も語りません。いや、その分野は専門外で知識がないので、語ることができないのです。そうして、自粛禍の深刻な「副作用」について、国民はほとんど知らされることがないまま、2年以上の日々が経過したのです。

【関連記事】
【第1回】精神科医・和田秀樹「子供たちをマスク地獄から救い出すには、大人たちが決断するしかない」
「日本はご飯が美味しくていい国だけど…」旅行先を日本→東南アジアに切り替えた英国人のホンネ
「緊急事態宣言は必要なかった」ウイルス学者が語る日本に最適な感染症対策ができなかった本当の理由
「マスクは人の目を気にして着用するものではない」現役医師が"マスク離れ"できない人たちに伝えたいこと
85歳を過ぎて認知症傾向のない人はいない…高齢者医療の専門医が「老いと闘うな」と訴えるワケ