2万人を超える華僑が台湾の国籍を失った
日本での各種書類上では無国籍となったものの、私たちが日本における合法的な定住者(後に永住者となる)であること、そして、毎日の生活の中で、日本と中華の文化を基盤にして生きるということは、これまでと何一つ変わらなかった。
中華民国・内政部・戸政司で華僑の国籍問題を担当していた人によると、「当時、2万人を超える華僑が断交によって中華民国国籍を喪失することになった」という。その人たちの中には、後日、日本に帰化した人もいれば、中華人民共和国の国籍に変更した人もいた。
一方、日本の法務省民事局の資料によれば、1971年の時点で930人あまりだった無国籍者は、1974年には9200人あまりに増加し、1977年には、その数が2900人ほどに減少している。ここに見られる無国籍者の統計の推移は、華僑が要因になっていたと推察できる。
「ないことが普通」疑問を抱くこともなかった
あれから約30年間、日本が発行する私の身分証明書には「無国籍」と明記されていた。海外に行く際は、法務省が発行する「再入国許可書」がパスポート代わりとなる。茶色いカバーの再入国許可書に、渡航先国のビザ(査証)と日本に戻ってくるための再入国許可が必須だった。
一方、台湾に行く場合は「中華民国護照」、つまりパスポートを使った。中国に行く時は、中華人民共和国が発行する「旅行証」を使う。海外渡航の際には、たくさんの証明書を持参し、行き先によって違う証明書を提出する。
私は、こうした面倒な手続き自体は誰もが行っているものだと思い、不思議に思うこともなかった。むしろ、再入国許可書や外国人登録証明書(2012年より在留カードに変更)に記されている「無国籍」という三文字の意味が理解できず、そのことを不思議に思っていた。
それぞれの書類が示す、自分のバラバラな身分。それらが何を意味しているのか、長い間、私にはわからなかった。