再入国許可がないと日本にも戻ってこれない

ある日、私は国境のはざまに立たされ、どの国にも入れない経験をした。21歳の春だった。

父と出席した韓国でのある会合から日本に戻ると、自宅に一枚のファックスが届いていた。フィリピンで行われる会議に出席してほしいという内容だった。

無国籍の私たちが海外渡航する際、行き先国に入国するためのビザがほとんどの国で必要となる。もちろん、日本に戻ってくるためにも、再入国許可がないと入国できない。だから外国に出かける前は、いつも緊張感に襲われる。

出発後の旅程をどうしようかと考えるよりも、まずは出発できるかどうかの方が肝心だ。ビザの申請は各国の大使館に直接出向かなくてはならない。それぞれの国の大使館職員に書類を提出し、身分証明書を見て私が無国籍だと知ると、いきなり眉間にしわを寄せ、態度が硬化する。

「怪しくない」ことを示すための書類の山

たいていの場合、自分が「怪しい者」ではないことを証明するために、所得証明書や銀行残高証明書、所属する機関からの休暇証明書、妊娠をしているかどうかを含めた健康診断書、往復フライトの日程表、行き先国の機関発行の招聘しょうへい状など、たくさんの書類が必要になる。そして書類をそろえるために、区役所や銀行、病院などを何日もかけて駆け回ることになる。

たくさんの書類を広げている人物
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出発までの限られた時間に手続きが間に合うか、時間と追いかけっこしながら感じるいい知れぬ不安感は、海外渡航する前にまず乗り越えなければならない試練である。そのすべての関門をクリアして初めて海外へ渡ることができる。そんな面倒な手続きなく、航空チケットとパスポート一つで海外へ出かけられる友人たちを、私はいつも羨ましく思っていた。

韓国から戻り、フィリピンに行くまであと10日しかない。急いで書類を集めビザの申請をした。この時、海外から戻ったばかりであったこともあり、再入国許可まで気にしていなかった。