では、日本の問題はどこにあるのか。これは、主要国の平均賃金の推移を見ると一目瞭然だ。この30年で主要国はみな賃金が右肩上がりなのに、日本だけが横ばいなのだ。3年前には韓国にも抜かれてしまっている。ちなみに、1人当たりGDPも、韓国に抜かれるのは時間の問題だ。

日本では、まじめに働いても給料が上がらないのは、要するに原資がないのだ。富の創出ができていないので、分配したくてもできないのである。

東京の横断歩道を渡る人々
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「賃上げした企業に税制優遇」の的外れ

岸田内閣の目玉が「賃上げ税制」で、2022年度税制改正大綱にもこれが盛り込まれた。これは、賃上げした企業に優遇税制を適用し、法人税の税額控除率を大企業で最大30%、中小企業で最大40%引き上げるという。

だが、私に言わせれば、まったくの意味不明な政策だ。

たとえば、生産性を向上させて賃上げをしたとしよう。これは難しいことではない。DXツールやロボットなどを活用して、それまで100人で行っていた仕事を10人で行うようにすればいいだけの話だ。

この場合、問題は余った90人をどうするかだ。ドイツなら会社は躊躇なく外に出す。そして、出された人には国が責任を持って再教育を施し、戦力化するのである。

ところが、日本では正規労働者は解雇規制で守られているため、簡単にリストラすることができないのだ。無理やりやればできないことはないが、そうすると今度は「悪徳経営者」「血も涙もないのか」と叩かれるので、手をつけにくいのである。

だからといってリストラしなければ、DXで生産性を向上させても、効果は大して出ないということになってしまうのだ。

首相は経済の勉強を一からやり直すべきだ

一方で、生産性はそのままで給料を上げると、人件費が上がって企業は収益が圧迫されて利益が減る。いくら法人税を下げてもらっても、利益が出なければ企業にとってメリットはないのだ。

だから、岸田首相は、企業に賃上げを求めるのであれば、「生産性向上で余った人員をどうするのか」という議論を一緒にしなければならないはずなのである。

岸田首相が今実施すべきことは、20年前にドイツのシュレーダー政権が行った構造改革「アジェンダ2010」型の取り組みだ。解雇規制を緩和すると同時に、職業訓練や職業紹介を充実させ、労働市場を活性化させるのである。「賃上げ税制」というわけのわからないことを行っている場合ではないのである。

それなのに、「給料を上げたら法人税を減らしてやるぞ」と上から目線で言ってはばからないのは、岸田首相が経済の原則をわかっていないからだ。

彼に必要なのはリカレント教育である。経済の勉強を一からやり直すべきだ。