※本稿は、大前研一『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
安倍元首相が残した「アベノミクス」という負の遺産
安倍晋三元首相が残した最大の「負の遺産」は、アベノミクスの失敗だ。
「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」という3本の矢を放ち、名目成長率3%と2年で2%の物価安定目標を掲げ、異次元の金融緩和を続けたものの、7年8カ月という任期をかけても達成することができなかった。
今や日本銀行(日銀)の総資産はGDP(国内総生産)の約1.3倍と、米欧をはるかに上回っている。
高騰する物価を落ち着かせるために、FRB(米連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)は量的緩和の縮小に向けて舵を切り始めているなか、日銀は身動きがとれないでいる。
本来なら、日本も量的緩和縮小に向けた「出口戦略」の準備に入らなければならないはずだ。だが、日銀は国債を民間金融機関から買い取り、自ら貯め込むことで、事実上の財政ファイナンス(国の発行した国債などを中央銀行が直接引き受けること)を続けている。もし日本が量的金融緩和の縮小を始めれば、国債が大暴落して大変なことになる可能性が高いからだ。
政権は「3つの構造的問題」を理解していない
その結果、日本の国債残高は1000兆円を突破し、債務残高の対GDP比は256.9%(2021年)と先進国の中で突出している。少子高齢化で労働人口が減っているというのに、いったい誰がどうやってこの膨大な借金を返していくというのだ。
そうかといって、このまま金融緩和を続けても、経済のシュリンクに歯止めはかからない。国の借金は増え続け、行き着く先はデフォルト(債務不履行)だ。
自民党政権が日銀の金融緩和には効果がないことを理解していないことが、最大の問題かもしれない。
私がこれまでずっと言い続けているとおり、日本経済が低迷している3つの構造的問題は、少子高齢化と人口減少、そして日本が「低欲望社会」だからだ。若者は持ち家にも自家用車にも興味を示さず、将来が不安だと言って、20代のうちから貯金に励んでいる。一方で、高齢者は貯金があっても「いざというときのために」というよくわからない理由で使おうとせず、貯めた3000万円を使わないまま死んでいく。21世紀の日本はそういう国なのだ。
だから、みなが欲望をみなぎらせていた20世紀型の経済政策(低金利とジャブジャブのマネタリーベース)を実行しても、効果がないのは当たり前なのである。