法務省の調査によると、無差別殺傷事件の犯人は1人を除いてすべて男性だ。なぜ無差別殺傷犯のほとんどは男性なのか。加害者家族の支援を行っているNPO法人World Open Heart理事長の阿部恭子さんに、無差別殺傷事件を取材している写真家・ノンフィクションライターのインベカヲリ★さんが聞いた――。(第2回)
※本稿は、インベカヲリ★『「死刑になりたくて、他人を殺しました」無差別殺傷犯の論理』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
「家族へのこだわり」が犯罪や引きこもりを生み出す
阿部氏は、加害者家族の支援をはじめる前、引きこもりの家族をサポートする事業をしていた。そこでも家族の問題を大きく感じたという。
「過干渉だったり、子どもの将来を決めてしまうとか、そういうことをする親たちがほとんどでしたね。営利事業のサポートで雇うくらいだから、利用者は裕福な家庭が多かったんですよ。そういう中で家族はすごく悩んでいたし、家の中もめちゃくちゃだったんです。引きこもりのお子さんを自立させるのに3年くらいかかりました」
親は、「子どもを何とかしてください」と相談に来る。しかし、阿部氏は引きこもり本人よりも、親とのコミュニケーションが一番大事だと言う。とくに、家庭のことに対して知らないふりをする父と話をすると、変化も大きいそうだ。
父を家庭の問題に参加させれば、妻との会話が増える。夫婦仲が良くなると、母の関心が息子だけでなく夫に分散する。すると、息子とほどよく距離が取れ、関係が良好になる。このようにして阿部氏は、夫婦の距離が遠ければ近づけ、近すぎれば離す。夫婦の関係性が、引きこもりの子どもを変えていくのだという。
「世の中って、経済的に困っている家庭のほうが問題が多いようなイメージがあるじゃないですか。でも良い家のほうが、世間体があるから大変なんだなあと思いましたね。そこは加害者家族の状況を見ていて、まさにピタッときました」
引きこもりを生み出す家庭も、犯罪者を生み出す家庭も、「家族へのこだわり」が強く、そのゆがみに敏感に反応する人間が怒りを溜め込むという点で、構造が似ているという。