無差別殺傷事件の犯人は、いったいどんな動機をもっているのか。『「死刑になりたくて、他人を殺しました」無差別殺傷犯の論理』(イースト・プレス)を出した写真家・ノンフィクションライターのインベカヲリ★さんは「無差別殺傷犯とかかわる10人の取材を終えて日本にある“自殺の問題”を感じた。重犯罪を起こすことも、自殺の一つの形態ではないかということだ」という――。
「2人以上殺して死刑になりたかった」
2021年の秋口から、「死刑になりたい」という動機での重犯罪がたて続けに発生していた。
はじまりは、2021年10月、京王線の車内で、映画「ジョーカー」の主人公をイメージさせる服を身にまとった服部恭太が、サバイバルナイフで一人に重傷を負わせ、車内を放火。「二人以上殺して死刑になりたかった」と供述した。
同年12月には、大阪・北新地のビルにある精神科クリニックで、谷本盛雄が放火し、27人(被疑者含む)が死亡した「北新地ビル放火殺人事件」が起きた。こちらは犯人が死亡したことで「拡大自殺」と言われている。
年が明け2022年1月、東京大学本郷地区キャンパス前の路上で、高校二年生の少年が包丁を振り回し、3人に重軽傷を負わせた。「医者になれないのなら、自殺する前に人を殺して切腹しようと考えた」と供述したという。
ほかにも未遂を含めると、ニュースで確認できるだけでも複数件ある。
こうした事件の連鎖を受けて、今年2022年5月『「死刑になりたくて、他人を殺しました」無差別殺傷犯の論理』(イースト・プレス)を上梓した。加害者と直接かかわった方を中心に声をかけ、各界の専門家など10人にインタビューをおこない、まとめた本だ。
しかし、多発する事件の印象とは裏腹に、この2021年は戦後もっとも殺人事件が少ない年だったという。一方で、コロナ禍真っただ中だったことによる心労や経済的不安定などにより、自死は若年層を中心に高止まりがみられる。
日本には大前提として自殺の問題があるということを、取材を終えて特に感じた。「死刑になりたい」と言って重犯罪を起こすことも、自殺の一つの形態ではないか、ということだ。