※本稿は、妹尾武治『未来は決まっており、自分の意志など存在しない。 心理学的決定論』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
社会的に成功していれば、社会的に許容される
「サイコパス」という存在が知られている。強すぎる合理性、論理性を有する一方で、人間的な情緒性が欠落している存在をサイコパスと叫ぶ。彼らの中には実社会で成功している者も多い。
特にサイコパスの比率が非常に高い職種として、デイ・トレーダー、裁判官、弁護士、弁理士、外科医、大学教員などが挙げられる。サイコパスは、社会的に許容されているといえる。脳が多数派とは異なっても、社会的に成功さえしていれば、社会的な許容が得られる。
相似形の話として、お金持ちの躁病は、病気と認識されないというものがある。精神的に躁状態で、破滅的な金銭感覚の持ち主であっても、それが成り立つほどの高収入者である場合、彼らは病気とは認識されない。マイケル・ジャクソンのような生活であっても、それを支えるお金があれば、彼らは病気とは認識されないのだ。
脳がサイコパス気質であり、少数派のアブノーマルな状態であっても、それが他者に迷惑をかけない、自分自身で安全な範囲で完結させることさえできれば、社会はそれを許容するのだ。許容される以上に、崇拝の対象になることさえある。
崇拝されるブラック・ジャック、ザッカーバーグ、ジョブズ
天才外科医のブラック・ジャック(手塚治虫による名作漫画の主人公)に心躍ったのは、彼のある種の超合理的なサイコパス的発想「救って欲しいなら大金を払うべき」が痛快だからだろう。
彼を崇拝して、医師を目指した人は多いはずだ。ただし、ブラック・ジャックは実際には、深い人間愛に裏打ちされた言葉を発しているので(患者はのちになってそれに気がつけるのだが)、彼がサイコパスなのか、サイコパスを演じた善人なのかは意見が分かれるだろう。
映画『ソーシャル・ネットワーク』では、フェイスブックの創設者であるマーク・ザッカーバーグがそのサイコパス気質のせいで、他者とトラブルを抱え続けていく様を描いている。同様のことはアップルの創業者であるスティーブ・ジョブズにも見られる。
彼らに共通しているのは、サイコパス気質が原因でトラブルを抱えまくっても、それを補ってあまりうる金銭(サイコパス気質をビジネスに巧みに活用して得た金銭)がある点である。人はこういった異形の人物に憧れ、崇拝すらすることがある。