母親との別れ

市原さんの長女は、2018年3月に大学を卒業。4月から関西の会社に就職し、一人暮らしを始めた。次女は、祖父母の騒動(マンション売却代金分割など)のおかげで法律の重要性を実感。弁護士を志し、同年4月に法学部に入学。自宅から通学している。

「娘たちには、義父母や私の母のことを包み隠さず何でも話しました。娘たちは私を理解し、一緒に考えてくれました。家族の現状を知っておくことや、母親の立場を理解することは、娘たちにとっても良いことだ思いました。家族が支え合うことが大事なのだと認識してくれたことと思います」

市原さんは、認知症になった母親や、お金のトラブルが続いた義両親のことがありながらも、常に外に出て働いてきた。それでも一番大切にしてきたのは、娘たちのこと。「日々を安心して過ごせるように心がけてきた」という。

2022年5月19日。叔父から「母危篤」の連絡があった。

市原さんが駆けつけると、母親はまだ意識があり、市原さんは特養に泊まった。その間、断絶していた弟家族や叔母たちが別れのあいさつに訪れ、10年以上にわたるわだかまりを解くことができた。眠る母親の前では皆、素直に謝罪や感謝を口にすることができたのだ。

「私は自分の生活を守るのに必死で、母の介護を叔父に押し付け、弟のせいにして、逃げてしまいました。もっと弟夫婦や叔父、叔母たちと腹を割って話し合えば良かった。自分のことばかりで、周囲の人のことまで考える余裕がありませんでした」

一方、義父はその後も、義母の毎月の介護費用や医療費などを細かく報告しろと言ってきたが、市原さん家族は「いい加減にして」と呆れ、突っぱねた。そんな義父も、もう89歳。先日は血小板減少症になり、長期入院をしていた。

高齢の女性の腕を支え公園を歩く女性
写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです

「私は大した介護はしていませんが、介護は終わりのない戦いだと思います。ネガティブな気持ちが出てしまうときは休んでほしい。離れて良いんです。離れて冷静になって考えても難しいことがあったら、家族やケアマネさんに相談したらいい。自分がハッピーでないと、人に優しくなんてできませんし、コミュニケーションが大事だと身をもって実感しています」

介護は「備え」と「関係者のコミュニケーション」が重要だ。何か起こってからでは冷静に対処できず、思い残しが出やすい。また、コミュニケーションが十分でないと、誤解や軋轢が生じやすい。市原さんのケースも、「備え」と「関係者のコミュニケーション」が十分であれば、避けられた後悔や誤解、軋轢は少なくない。

5月26日、市原さんの母親は、85歳で死去。最期に娘と息子、弟や妹たちの復縁を見届けられ、安心してこの世を去ったことだろう。(※市原さんは"まみん"という名前で、自身の半生を綴るブログを書いている)。

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