生きているうちに「100回」の目標

74歳ともなると、さすがに「あと何年生きるのだろうか」ということも考えるようになりました。

今、日本人男性の平均寿命はだいたい81歳です。そうすると僕の余生はあと6、7年。「6、7年でゴルフはあと何回やれるだろう」。ふと、そんなことを考えてみたのです。さすがに80歳を超えてゴルフをやることはないでしょうから、77歳か78歳ぐらいまでやるとしましょう。するとあと3、4年しかない。さすがにこれは焦ります。

そこで立てた目標が100回。今入会しているゴルフクラブのコースに「100回出よう」という目標を立てたわけです。

「3、4年で100回」というのはかなり大変です。月に2回行ったとしても年24回。そのペースだと4年でも96回ですから、100回に届きません。しかも他のゴルフコースにも行きたいですから、さらに目標は遠のく。そんなことを考えていると楽しくなってきてしまい、「我ながらおもしろい目標を立てたな」と。同様に「銀座の寿司店にあと何回行けるのか」とか自分なりに目標を立ててみるのもいいかもしれません。

100という数字に特に理由はありません。ただの思いつきです。ゴルフを始める人の最初の目標が、たいてい「スコアで100を切る」ですから、そんなところから思いついたのかもしれません。

晩年になり、桜の季節になると、「自分はあと何回桜を見られるのだろう」などと考える人も多いようですが、それに比べると「100」というのは数字が大きくて、何か良い気がします。そもそも桜を自分で咲かせることはできませんが、ゴルフへ行くかどうかは自分次第ですから、自分でコントロールできるところも良い。個人的にはなかなかおもしろい目標を考えたなと悦に入っているところです。

僕が仕事を続ける理由

漫画家には定年がありません。なので、「弘兼さんはいつまで働くんですか」とか「引退についてはどう考えてますか」などと、本当によく聞かれます。その答えは「いつやめたっていい」。しかし、やめられない理由があります。

それがアシスタントのこと。もし、僕が漫画を描くのをやめたら、彼らが食いっぱぐれてしまいます。みんな60代後半や50代ですから、もう今さら潰しがききません。みんな、もういい年ですから、ローンを抱えていたり、養育費がかかったり、それぞれの事情を抱えています。ひとりの漫画家であると同時に、社員を抱えるプロダクションの社長でもありますから、そう簡単に「もうやめた」と言えないのが現状です。

もちろん、漫画を描くのが好きですから、やめてしまったら抜け殻になってしまうのではないかという思いもあります。社長としての責任感と漫画を描くのが好き、この2つが今でも漫画を描いている理由です。

もし、そういうすべての事情を取っ払って、好きなことができるとしたら……それでも漫画は描き続けるでしょうね。背景なども含めて、すべて自分で描ければ、もっともっと満足のいく漫画が描けると思うのです。やはりアシスタントが描いた絵には満足できないことが多いですし、連載漫画は締め切りがありますから書き直す時間もなく、どうしても「ええい、しょうがない!」と出してしまうことも珍しくありません。

よほど、ひどければ単行本になる時に直すこともありますが。自分ですべて描けるようになった時には週刊や隔週でなくても、月刊誌や季刊誌、あるいは年に一話だけどこかで発表する形でもいいかもしれません。もし、それが実現したら、週のうち3日は漫画を描き、2日はゴルフへ。結局そんなスケジュールになるんじゃないでしょうか。