定年後の人生を楽しむには、なにが重要なのか。『課長 島耕作』などで知られる漫画家の弘兼憲史さんは「『常識』という棚にしまったすべてのものを一度おろして、ひとつひとつ吟味してみるといい。たとえば私は切手のコレクションを処分することにした。処分方法は『郵便物に使う』。時間はかかるが、焦る必要もない」という――。

※本稿は、弘兼憲史『増補版 弘兼流 60歳からの手ぶら人生』(中公新書ラクレ)の「増補版のためのあとがき」を再編集したものです。

郵便切手のコレクション
写真=iStock.com/mdragan
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2021年7月に「コロナ陽性」となった

弘兼流 60歳からの手ぶら人生』を最初に出版してから5年が経ちました。僕は69歳から74歳に。今年(2022年)9月には75歳になり、ついに後期高齢者の仲間入りです。この5年の間にいろいろな変化もありました。そこでここからは、この5年のさまざまな変化について、思うままに記していきたいと思います。

まず大きな変化は、なんと言っても新型コロナです。このパンデミックは人の行動や距離感、仕事や学校など、今まで当たり前にあった多くのもののあり方を、大きく変えました。

2021年の7月、実は僕もこの病気にかかりました。いつものように仕事をしていると「あれ、ちょっと熱があるな」と感じ測ってみると最初は微熱でした。ところが、あれよあれよという間に38度7分まで上昇したのです。

たまたま知り合いからもらった簡易検査キットがありましたので、それをアシスタント全員にも配り、検査してみると僕だけが「陽性」でした。すぐに仕事場にいた全員に「今から2週間を休みにする」と言い渡し、解散。そして保健所に電話したのです。

ところが、保健所の返事は「そのまま自宅待機するように」。そういうものかなぁと思いつつ、簡易の検査キットですからどこまで信用していいのかわかりませんし、もし本当に陽性ならば、既往症はないものの年齢的に重症化しないとも限りません。

74歳にして、人生で初めての入院生活

そこで、知り合いの医者に連絡すると「すぐに来てください」と言われ、翌日PCR検査を受けることに。すると、やはり結果は「陽性」。運が良いことに、その頃は病床に余裕がありましたので、即入院ということになりました。

ちなみに感染源がどこだったのかは、いまだに不明です。その少し前に連載漫画を担当している編集者4人と会食をしましたが、その4人は全員陰性でした。

ひとつ考えられるのは、僕は漫画のアイデアをファミレスなどで考える際、左手の人差し指をグッと噛むクセがあり、噛みダコができています。スーパーで買い物をするのが日課ですから、もしかしたら、指にウイルスが付着していて、そこから感染したのかもしれません。

スーパーでは、手に取った商品を吟味してから棚に戻す人が大勢いますからね。

いずれにせよ、74歳にして、人生で初めての入院生活が始まりました。