転職エージェントの「熱心な勧誘」に乗っていいのか
中途採用はスキル重視の即戦力採用と言われるが、求職者の持つ専門性と会社が求める専門性のマッチングは意外と難しい。実は本人も自分の得意分野など専門内容をよく理解していない人も少なくなく、一方求人企業も細かい専門性まで要求することが少ないからだ。
たとえば転職エージェントに登録し、コンサルタントから熱心に勧められて転職を決意したが、やりたい仕事ができずに数年後に別の会社に転職した40歳の人事部の男性はこう語る。
「前の会社の人事部では人事全般の仕事をこなしてきましたが、転職先では管理職相当のポストに就き、人事と事業部の架け橋になる仕事がしたいと希望していました。しかし、転職エージェントのコンサルタントは仕事に対する思いはあまり聞かず、どこかおかしいなと思っていたのですが、オーナー社長と面談し、風土を変えたいので手伝ってほしいと言われ、入社しました。
しかし、入社すると採用担当の課長にはなりましたが、やりたい仕事はやらせてもらえない。結局、採用業務で地方の大学のドサ回りが主な仕事です。また、オーナーもどこまで本気で会社を変える気があるのかわからなくなったのです」
希望した仕事がやらせてもらえなければモチベーションも下がる。実はこうしたミスマッチの原因は求職者と求人企業の双方にある。求職者の問題について前出の転職エージェントの幹部はこう語る。
「大手企業出身者であれば一定の専門性と何らかのマネジメント経験があるが、単に課長としてこんな仕事をしていましたというレベルしか説明できない人が多い。どんなメンバーに対してどのようなマネジメントをしていたのか方法論や自分の考え方を明確に説明できるようにすることが大事。さらに専門性についてはどんな仕事の経験を積んできたのか、何が得意で何が不得意なのかを整理し、転職先では具体的にどんな仕事をすることで貢献できることを説明できるようにすることが大切だ」
自分の強みを細かく説明できなければ相手に伝わらないということだ。一方、求人企業の問題として、いくら本人が得意とする専門性を持っていても必ずしも生かされないケースもある。
たとえばビッグデータを処理して新規事業の芽を生み出す役割を担うデータサイエンティストを5年ほど前にあらゆる企業が積極的に採用しようとした。
ところが入社してもサポート体制ができておらず、会社のビジョンも明確ではなかったために人材を使いこなせずに去ってしまったデータサイエンティストも多かった。
今で言えばデジタル人材やDX人材だろう。新設のデジタル庁が民間企業から多く採用したが、結局、活躍の場が広がらずに去ってしまった人も少なくないといわれる。