「突然死は大統領の承認済み」という投稿も…

不審死は開戦前の1月末から起きており、天然ガス大手、ガスプロム関係者が4人、医療会社経営者やレストラン・チェーン経営者も死亡した。うち3人は一家心中とされ、別荘や自宅で家族ともども死んでいるのが発見された。5月8日には新たに、大手民間石油会社ルクオイルの元幹部がモスクワの霊媒師の自宅で死んでいるのが発見された。

報道統制下にあるロシアのメディアは事実関係しか報じていないが、ガスプロムバンク元副社長のアバエフ氏は、情報機関の特殊部隊が使用する銃で撃たれていたため、憶測を呼んだ。

ガスプロム関係の4人は主に会計部門を担当しており、政権の汚職・腐敗をめぐる機密を知っていたとの見方も出ている。

ロシアの情報交流アプリ「テレグラム」に「SVR(対外情報庁)将軍」の名称で投稿する謎の人物は5月2日、「ガスプロムバンク関係者の突然死は、プーチン大統領の承認を得て、ボルトニコフ連邦保安局(FSB)長官とパトルシェフ安保会議書記のイニシアチブで始まった。昨年末、ガスプロムバンクによる情報機関の秘密工作への資金提供について、情報漏れや横領に関する情報が大統領に報告されたことが発端だ」と書いた。

しかし、ロシアと欧米間では激しい情報戦が行われており、投稿はロシアを揺さぶるフェイクニュースの可能性もある。正確な情報に乏しく、相次ぐ猟奇的事件の真相は謎のままだ。

エリートたちが悟った「オリガルヒ帝国」の終焉

ウクライナ侵攻が長期化する中、ロシアで反戦志向が最も強いのがオリガルヒだ。

「アルミ王」のデリパスカ氏、アルファ銀行のフリードマン会長はともに侵攻を「狂気」と非難した。オンライン銀行を創設したティンコフ氏は「大虐殺であり、狂った戦争だ」と反発した。今回死者を出したルクオイル社も「即時停戦」を求める声明を出した。

大統領の古い友人であるチュバイス大統領特別代表やドボルコビッチ元副首相らも戦争に反対し、要職を辞任した。

米紙ワシントン・ポスト(4月29日)によれば、開戦後、戦争に反対して職を辞し、出国した政府高官は4人、ロシアを去ったオリガルヒも4人という。

複数のオリガルヒや政府高官は同紙に対し、「大統領は孤立を深め、周辺の側近は強硬な治安機関出身者(シロビキ)に支配されている。外部から大統領に影響力を与える力は全くない」と述べた。

2月24日の開戦から数時間後、企業経営者ら27人のオリガルヒがクレムリンに招かれ、プーチン大統領と会見した。事前に予定されていた面会に2時間遅れて登場した大統領は、「あれ(侵攻)以外に選択肢がなかった」と述べた。企業経営者らは押しつぶされたように黙り、「ロシアが市場経済に移行した後、30年にわたって築いた帝国が終わったことを悟った」(同紙)という。