反戦派の富裕層を「人民の敵」呼ばわり

プーチン大統領は富裕層の反戦機運を最も警戒している。3月16日のオンライン演説で、「欧州に豪華な邸宅を持っていても非難はしない。問題は彼らの心が欧米側にあることだ」「西側は第五列をロシアに送り込んで、国家の分断を図ろうとしている」と述べ、離反者を「裏切り者」呼ばわりした。

「第五列」とは、スターリン時代に「人民の敵」として粛清された共産党幹部らに押された烙印だ。「プーチンのスターリン化」(政治評論家のパブロフスキー氏)を思わせるすさまじい比喩だった。

政権によるオリガルヒへの締め付けも、8人の富裕層連続怪死につながる政治的背景にあるかもしれない。

プーチン政権の標的は主に、90年代のエリツィン時代に富を築いたオリガルヒであり、政権発足後に利権を握ったサンクトペテルブルク出身のオリガルヒとは異なる。

「大統領の金庫番」と呼ばれ、ガス大手ノバテク大株主のティムチェンコ氏、ロシア銀行大株主のコワルチュク氏、大統領の柔道仲間で建設業などを営むローデンベルク兄弟らは、プーチン氏のおかげで超富裕層になっただけに、戦争には沈黙を貫いている。

ただし、ロシアに約250人いるとされるオリガルヒの大半は、欧米諸国の制裁で資産を激減させており、ビジネスの立場から停戦を望む点で一致する。政権を支える親プーチン派オリガルヒが、大統領に停戦を進言するかどうかも注目される。

モスクワの高層
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強気発言とは裏腹に国内経済は混迷している

欧米の経済制裁で、ロシア経済の苦境も長期化しそうだ。通貨ルーブルは侵攻直後暴落したが、政府が輸出企業に対し、外貨収入の8割をルーブルに両替するよう義務付けたため、持ち直した。

プーチン大統領は、「西側諸国の経済的な『電撃戦』は効果がなかった」と強調し、インフレやエネルギー不足で苦境に陥ったのは西側経済だと皮肉った。

しかし、ロシアの3月の消費者物価指数(CPI)は前年比で16.69%上昇。首都では今後20万人が失業するとソビャーニン・モスクワ市長が警告した。世論調査では、43%の国民が「貯金ゼロ」と答えており、インフレが庶民生活を直撃している。ロシア人は90年代のハイパーインフレの経験から、現金を消費に回す傾向がある。