顧客の視点で製品価値を理解する

コスト積み上げ方式による価格設定の大きな限界は、顧客の存在を頭に入れていないということだ。01年にマスコミを騒がせた、革命的なスクーター「セグウェイ」は、価格設定プロセスで顧客に十分目配りをしないとどうなるかの好例である。

セグウェイは乗り手の体の傾きに反応して走るという特徴を持っていたが、この技術が競争相手に盗まれるのではないかとの懸念から極秘裏に開発された。

このプロジェクトを内部から取材し、『Code Name Ginger』(邦訳なし)を著したジャーナリストのスティーブ・ケンパーは、「私がいる間、マーケティング調査はほとんど行われていなかった」と言う。

顧客の意見を聞く代わりに、コストがセグウェイの価格設定のおもな基準となった。革新的な技術により製造コストが跳ね上がるとともに、投資家がROIの増加を求めたため、セグウェイの一般消費者モデルの販売価格は、ケンパーの報告では「2000~3000ドル」だったものが4950ドルに上昇した。これは、単なる最先端のスクーターと誰もが思うような製品の価格としては高すぎた。その結果、消費者モデルの発売は延期を余儀なくされ、セグウェイ社は消費者モデルよりも高価な業務用モデルに専念することになったのである。さらに、初年度5万から10万台という同社の販売予測も大きく外れてしまった。

顧客の意見を聞いていれば、セグウェイの価格決定プランの欠点も明らかになっていたかもしれない。値頃価格を決める際には顧客の意見が重要であるとの認識が大きなきっかけになって、価値に基づく価格設定という考え方が登場した。

顧客に問うことで、この価値を理解しようとしている企業もある。しかし、顧客は新しい製品、それも革命的な新製品となると、その価値を理解できないことが多い。このような場合、価格設定の担当者は製品だけでなく顧客のことも理解しなければならない。企業同士の取引なら、「顧客があなたの製品を理解できなければ、あなたが顧客のビジネスを理解しなければならない」とストラテジック・プライシング・グループのネーグルは言う。

最終的な目標は製品のバリュー・ドライバー(価値促進要因)、すなわち製品が顧客にもたらす利点を明らかにすることである。「その過程では6つから8つのバリュー・ドライバーが特定されるだろう。経験的には、最も重要な2~3の要因に絞り込んでわかりやすくしたほうがよい。プロセスを推し進めるにはそれで十分だ。無理して欲張ることはない」とネーグルは言う。