能力開発のツールとして広く使われてきた360度フィードバック法が、最近は実績評価にも導入されている。だが、能力開発の面では効果的だった「同僚からのフィードバック」は、実績評価においてはアキレス腱になりかねない。

360度フィードバック法(多面的評価法)は、上司、同僚、直属の部下からのフィードバックを組み合わせて社員の長所や能力開発の必要性について幅広い見方を提供するツールであり、能力開発において実績を挙げてきた。

だが、実績(パフォーマンス)評価に使われる場合、360度フィードバック・レポートに記入するマネジャーの大多数が、同僚の実績のいかなる面についても批判することは避けたがる。

昇給や昇進がかかっている場合はなおさらだ。否定的なフィードバックをすることで、誰がどんな評価をしたかがわかったとき相手との人間関係が悪くなるのを心配する者もいる。さらに、しっぺ返しを恐れる気持ちもある。その半面、悪意のある人間が、このチャンスを利用して同僚の評判を落とそうとするかもしれない。結局この問題のために、多くのマネジャーが、評価される側としても、フィードバックを提供する側としても、360度評価に参加するのを敬遠しているのである。

一部の専門家は、360度フィードバック法をパフォーマンス評価に取り入れるのは誤りだと主張する。しかし、そうではないという専門家もいる。彼らは、このツールを、年次パフォーマンス評価のための直接的で率直なフィードバックを促し、広範な組織の特定のニーズや優先課題を満たすように、手直しする新しいアイデアを紹介している。

パフォーマンス評価を360度フィードバック法に使うことに企業が魅力を感じる理由は、容易に理解できる。この手法はマネジャーのパフォーマンスについて、従来の上司による評価よりはるかに包括的な図を描き出してくれるのだ。ジンカ・トーゲルとジェイ・A・コンガーが『360-Degree Assessment : Time for Reinvention(360度評価:手直しの時期)』(2003年/邦訳なし)で指摘しているように、能力開発と評価の両方にこの手法を利用している企業は、投資した資金より大きな見返りを得ている。著者たちは「組織のフラット化が評価と昇進の関連を弱め」、従来のパフォーマンス評価法の重要性を損なうとともに、「評価プロセスに対する不満の増大」を生んでいる、とも指摘している。