同じく厄介なのが、評価対象者がフィードバックのプロセスを懲罰的とみなす恐れがあることだ。変化を促すためには、懲罰は報酬や励ましよりはるかに効果が低いことが各種調査で明らかになっている。トーゲルとコンガーも、こうした反対意見があることを認めている。「360度のデータをパフォーマンス評価に使うと、能力開発のプロセスが『懲罰的』なものになる。つまり、変化を『可能にする』プロセスではなく『強制する』プロセスになるのである」。

トーゲルとコンガーは、2種類の360度フィードバック法をつくるよう勧めている。能力開発用とパフォーマンス評価用である。能力開発バージョンでは質的なフィードバックが重視され、評価バージョンでは数量的な回答が重視されるべきだ。評価バージョンの評価基準は、質、量、コストなど、測定可能なパフォーマンス結果に関係したものとなる。さらに、評価者は、高い離職率や資金損失などの制約が個人のパフォーマンスにどの程度、影響を及ぼしたかを示さなければならない。評価対象者とその上司は、それを踏まえて、それらの制約が今後どのように除去されるかを話し合うことになる。

360度フィードバック法をパフォーマンス評価に使っている企業はひどい誤りを犯している、と主張する専門家もいる。「360度のようなツールは流行になる。すると企業は、自分たちがそのツールを使う目的やその効果をよく考えもせず、むやみに流行を追ってそうしたツールを採用する」と、職場心理学者のケン・クリスチャンは語る。「その場合、『われわれは何のために能力開発ツールをパフォーマンス評価に使うのか』と問いかける人間が1人もいなければ、事態は悪化する。360度評価の場合、フィードバックの匿名性は保てない。だから、見せかけの評価になる。そして、このツールの能力開発面の利点が失われる」。

パフォーマンス評価で360度フィードバック法から最大の成果を得るには、次のような原則に留意すべきだ。