反論や注意をすると暴力を振るう

神真都Qの構成員になったAさんは、イチベイのファッションをまねしはじめ、まるで自分自身を新しく作り直しているかのようだった。会社で失脚して以来口にしがちだった卑屈な言葉が減り、顔つきまで変わったが、やがて会話が成立しなくなっていた。

雨の道路に反射する人のシルエット
写真=iStock.com/AlexLinch
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出勤しなくなったAさんに妻が働いてほしいと言うと、「もっと大事なことをしている。邪魔をするな」と怒鳴り、スマートフォンに没頭したり、どこかへ出掛けたりしてしまう。さらに、妻の見ていないところで陰謀論を子供にまで吹き込もうともしていた。反論や注意をすると、髪をつかまれるなどの暴力を振るわれる。

「何カ月もこんな感じなので、精神的に限界です。いつ死ぬか、どうやって死ぬかしか考えられません。離婚したいのですが、同意してもらえるとは思えません」(Aさんの妻)

警察の介入を受け、神真都Qという組織が今後どうなっていくのかはまだわからない。だがたとえ神真都Qがなくなっても、変わり果てた夫の人格はもとには戻らないだろうと、Aさんの妻は言い切った。

「被害者とは言いませんが、食い物にされていると思います」

もう1人、やはり神真都Qの構成員になった独身女性(仮にBさんとする)のケースを紹介する。筆者にはまず、彼女の親族の1人から相談が寄せられた。「悪いのは神真都Qと信者なので、彼女も批判されて当然だと思います。でもわかっていただきたいことがあるのでメールを送ります。被害者とは言いませんが、食い物にされていると思います」

一人暮らしをしているBさんは、以前から仕事や生活の中で微妙な「生きづらさ」を抱えてきた。ゴミ出しの細かい仕分けルールや曜日指定をうまく理解できず、近隣トラブルを起こす。スーパーの値札に表示されている「30%引き」などの意味が理解できず、金額を計算しようと考えるだけで頭がいっぱいになり、いつも買い物に失敗する。

職場でも製品名や作業手順が覚えられず、病院で検査を受けたところ「境界知能」と診断された。障害者支援の対象外だが、コミュニケーション能力や事務処理能力の要求レベルが高い現代社会ではさまざまな困難を抱えがちで、日本人のおよそ7人に1人が相当するとされる。