【芝田】「現在窮乏、将来有望」の思いは今にも通じます。「私たちの会社は将来に向けて暗い業種では決してなく、明るい夢のある会社なんだ」という思いをANAグループ社員と共有したい。それが私の最初の仕事だと思っています。

大学休学中、北京大使館で得た大切な教訓

——芝田さんは「共有」と「共感」という言葉をよく使われるそうですね。

【芝田】企業理念はぜひ共有したい。理念には「安心と信頼を基礎に、世界をつなぐ心の翼で夢にあふれる未来に貢献します」とある。ANAらしい企業理念だと思う。残っている社員は企業理念を共有したから、残ってくれている。

アクションプランには「共感」してほしい。三つのブランドでしっかり今後の航空需要を取っていく。そこにテコ入れして拡大していきます。そして非航空事業である「ニューバリュー事業」としてバーチャル旅行体験などの新事業の種まきは終わっています。それぞれの事業がANA経済圏の中で成長することによってプラスαの付加価値を生み出すというアクションプランへの共感を求めていきたい。

そういう対話を通じて感じることは、社員にはチャレンジ精神があるということです。私が入社した頃のような野蛮な野武士思想ではなく、しっかりと心根にあるANAのDNAを今の「現在窮乏」にマッチさせ、呼び起こしたいと考えています。

ANAホールディングス 代表取締役社長 芝田浩二氏
撮影=遠藤素子

——社員にとっては、悲観的なトップより、楽天的なほうがモチベーションは保てますね。

【芝田】社員たちがその分、慎重ですからね。能天気に楽天的なのではないです。常に違う局面に対する備えを頭の中で試行錯誤しています。常に別の案、「Bプラン」を考えています。

——そう考えるようになったのはいつ頃からですか。

【芝田】仕事の一番基礎を学んだのは、大学4年、5年の2年間に休学し、北京の日本大使館で働いた時です。曲がりなりにも外交官(※編集部註)をやらせてもらい、仕事はこうするんだと学びました。

※編集部註:外務省在外公館派遣員として北京の日本大使館に派遣された。在外公館派遣員とは、大使館、総領事館などの在外公館に派遣される民間人材で、語学力を生かして館務事務補佐などの業務にあたる。嘱託職員で任期は原則2年。現在は外務省の委託を受けてた国際交流サービス協会が派遣員の募集・選考を行っている。

当時、大平正芳首相の訪中があり、分刻みの工程をつくる作業をしました。想定外の事案にも対応できるように、Bプランはしっかり用意していました。その経験がその後の考え方の基礎になったのかもしれません。