——お互いが客を取り合うことにはならないのでしょうか。

【芝田】少々あってもいいんじゃないかと思います。それぞれに競争し、切磋琢磨せっさたくましてほしい。Peachは香港や台湾など4時間ほどの距離を飛んでいます。AirJapanはもっと長い距離を飛ぶ。場合によっては同じ所にも飛びますが、AirJapanは訪日需要がメインで外国人が便利な時間帯に離発着する。フルサービスのANAともマーケットが違うんです。十分、み分けはできると思います。

ANAホールディングス 代表取締役社長 芝田浩二氏
撮影=遠藤素子

出向社員は、需要を見ながら全員戻す

——守っているだけの方がマイナスだと、取りこぼしを恐れているのでしょうか。

【芝田】その通りです。今後の成長の糧をどこで拾えばいいのかと常に考えています。需要は元に戻りますからね。出向社員も含めて人材と機材というリソースは小さい会社になっていますが、中身は筋肉質になり、ものすごくパワフルになったというのが今の状況です。

この体質をもってすれば、次の需要の戻りに応じて反転攻勢できる下地は十分できている。さあ反転攻勢だという時にその備えができていないと本当にみじめなことになります。

多くの企業様に受け入れていただいている約1700人の出向社員はいずれ復帰します。機材も徐々に柔軟に戻す。場合によっては前倒しすることもある。そういう備えはしっかりしていきます。しっかり需要をみながら、みんな戻すのが大前提です。

ANAホールディングス 代表取締役社長 芝田浩二氏
撮影=遠藤素子

——多くの会社は苦しくなったら新たな手を打たず、守りを最優先すると思いますが。

【芝田】航空事業はインフラ事業だからでしょう。昨年秋のように新型コロナがいったん収束したときの需要の戻りを考えると、航空事業の存在は決してなくならないという自負を改めて感じ、大きな自信となりました。無駄な準備は省きますが、反転攻勢の準備をしていることが大事です。

——ANAの前身、「日本ヘリコプター輸送」の創業社長だった美土路昌一さんは「現在窮乏、将来有望」と社員を叱咤しった激励し、かつて「野武士」「アウトサイダー」といわれたANAは日本一になりました。今のANAはまさに「現在窮乏」という状態ですが、かつてのような気風は社内にまだ残っているのでしょうか。

【芝田】そのような気風はもうないのかというと、まだ強いとは思う。正直言って、いろんな思いを社員は持っています。しかし月齢賃金を含めた賃金のカットがあったのに、それでも会社が好きで残ってくれている社員がいる。とてもありがたいと思います。