安価な天然ガスという餌に、野心的な欧州は見事に誘い込まれた。先述の通り、脱炭素は後戻りが許されない一方通行の隘路あいろだ。急激な脱炭素戦略によって、欧州は自らプーチンの罠にはまっていった格好となったと言える。

戦争が終わってもエネルギー問題に悩まされることになる

アメリカはこの期に乗じて国産シェールガスの増産をもくろみ、欧州向けの輸出量を増やしている。それでも、地つながりのパイプラインで輸送した低コストのロシア産天然ガスに価格で対抗することは難しい。ウクライナ戦争が終わったとしても、欧州はエネルギー不足、調達先の確保や価格高騰に悩まされ続けることになる。

特に深刻なのは、ドイツだろう。ドイツは欧州各国の中でも、急進的な脱石炭、脱原発方針を掲げ、転換を図ってきた。特にメルケル政権の次に発足をした現政権は、メルケル政権よりもさらに高めの気候変動対策を掲げ、世論の支持を取り付けてきた背景がある。そのため、もはやアイデンティティーにもなったその方策を下ろすことは容易ではない。

ノルド・ストリーム2という天然ガスのパイプライン敷設計画は、さすがに承認手続きを停止せざるを得なくなったうえ、脱炭素方針の見直しについて、ハーベック経済・気候保護相が、現時点での方針見直しに否定的な見解を述べる一方、「タブー」なしに妥当性を検討する姿勢を示すなど、すでに旗下ろしの兆候は見せつつある。実際、すでにドイツでは休止中だった石炭火力が再稼働した。

各国の思惑がうごめく脱炭素戦線ではあるが、その移行期はバランスが崩れるものであり、こうしたリスクの急な顕在化も生じるのも特徴だろう。単にCO2を減らすという観点だけでなく、各国の綱引きやゲームの潮目なども意識しながら取り組まなければならない。

脱炭素は単なる環境対策ではない。日本がこれまで議論を避けてきた、国の根幹をなす安全保障の問題なのだということが、欧州の流転から読み解けよう。

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