しかし、その後も北方四島周辺のロシアが領海と主張する水域では、旧ソ連・ロシア国境警備船による日本漁船の拿捕が頻発。銃撃事件も多発したため、交渉の末、1998年に「北方四島周辺水域における日本漁船の操業枠組み協定」が締結されました。

このように、長い時間をかけて日本漁船が安心して操業できる取り決めを作ってきたのです。しかし、今のところサケ・マス漁業交渉も、貝殻島昆布漁の交渉も見通しが立っていません。

北方四島周辺での漁獲量は、日本全体の漁獲量でいえば少ないかもしれません。だからといって、この水域での漁業を放棄していいのでしょうか。それは日本の安全保障においても健全な状態と言えるのでしょうか。

羅臼漁港から見える国後島
写真=iStock.com/Tatsuo115
※写真はイメージです

元島民からの涙ながらの電話

また、元島民からの涙ながらの電話もあります。

「北方四島にあるお墓へのお参りは、今年もできないのでしょうか」

新型コロナの影響で、20年、21年は北方墓参は実施されていません。

北海道で生まれ育った私は、元島民たちの思いを昔から知っています。およそ1万7291人が引き揚げてきたのに、もう5532人(令和3年12月末)になってしまいました。平均年齢は87歳です。先祖の墓を置いてふるさとを捨てざるを得なかった島民の思いを考えれば、この人道支援だけは何があっても再開、継続しなくてはいけません。

声高に「北方領土を返せ」と叫んでも、島は帰って来ません。だから私はロシアと向き合うのです。大切なのは対話を続け、お互いの落としどころを見いだすことです。強気一辺倒ではなく、相手の立場や言い分を知り、信頼のパイプを築くことです。

エネルギー自給率、米国は104.2%、英国は71.3%、日本は

そしてエネルギー供給の問題もあります。日本は一次エネルギーの自給率が低く、2019年で12.1%しか自給できていません。アメリカは104.2%、イギリスは71.3%を自給できていますし、他のOECD諸国と比べても日本は極めて低いのです。

日本は海外から輸入する石油・石炭・天然ガスなど化石燃料に大きく依存しており、特に原油輸入のおよそ9割は中東に依存しています。オイルショックや中東で戦争が起こるたび、何度も痛い目に遭ってきた経験を思い出してください。エネルギーの安定供給という点において、供給源を多様化する必要があります。

ですから、石油・天然ガスを豊富に埋蔵するロシアとの関係は重要です。現在、天然ガスの約1割をロシアからの輸入に頼っています。

こういった事情がある以上、何でも欧米と足並みをそろえればいいわけではありません。

この戦争が終わった後を考えなくてはなりません。日本の国益を第一に考え、出口戦略を常に考えておくことが本当の外交ですが、現在の日本にはこの点が欠けているように思います。