「半径3メートル世界」にヒントがある

SOCが高い人は、困難や危機にうまく対処できる。また、そうした環境下でも成長し、精神的にも肉体的にも社会的にも、健康で幸せな人生を送ることができる。

どんなに厳しい環境に置かれても、自分を取り囲む「半径3メートル世界」に「私が生きにくいと思わない世の中」を作る、あるいは身を置くことができれば、「私」はしなやかに、たくましく、そして幸せに生きることができる。

半径3メートル世界とは、アントノフスキーがSOCで定義した「生活世界one’s internal and external environments」という概念を、私なりの言葉にしたものである。

「国家」「社会」「会社」といった大きな環境ではなく、自分という個人を取り囲む「半径3メートルの小さな環境」で共に暮らす人々といい関係が構築できれば、どんなに生きづらい世の中であっても、どんなに険しい壁にぶち当たっても、それを乗り越えられる。そのためのパワーが「私」たちには秘められているのだ。

絶望死の正体

逆に、「私にとって生きにくい世の中だ」と慢性的に感じていると、その状態が人を“死”に向かわせることが最新の研究で確認されている。いわゆる「絶望死」だ。

絶望死は原語では Death of Despair と呼ばれ、2015年に「consumption, poverty, and welfare」の分析でノーベル経済学賞を受賞したアンガス・ディートンと夫人のアン・ケースが提唱した現象である。

ディートンとケースは「幸福と自殺」との関係を調べるために、「不幸せな場所」で自殺者が多いかどうかを調べた。ここで「不幸せな場所」の指標に用いたのが、「私の人生はうまくいっていない」と思うかどうかだった。

その結果、中年の白人アメリカ人男性の自殺率と罹患率が増えていることがわかったのである(『絶望死のアメリカ 資本主義がめざすべきもの』)。