役職定年の年上部下を「困ったおじさん」にしないため、どうすればいいのか。健康社会学者の河合薫さんは「これまで生きてきた企業社会を絶対視してはいけない。『戦力外扱いになった』と腐るのではなく、一個人としての生き方や周囲との関係性を見直すチャンスにしてほしい」という──。(第5回/全7回)

※本稿は、河合薫『THE HOPE 50歳はどこへ消えた?』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

元上司の年上部下

いろいろとやってはいるんですが……難しいですね。ホント、どうしたらモチベーションを上げてくれるのか。自分では言葉を選んでコミュニケーションをとっているつもりなんですけど、あからさまに嫌な顔をされるとこたえます。年上部下って、ストレス以外の何物でもないです。

こう嘆くのは、薬品会社に勤める課長職の平田悟さん(仮名、44歳)だ。

平田さんの会社では、数年前から若手を課長に抜擢する一方で、「役職定年」の年齢を55歳から50歳に一気に引き下げた。

50歳を会社員の1つの節目とし、「役職定年にして今までと同じ仕事をする」か、「希望退職する」か、「地方などに転勤する」か、以上3つの選択肢から選ばなければならなくなった。平田さんによれば、多くの50歳が「役職定年」を選択するため、元上司が“年上部下”になり、若手が扱いに苦労しているという。

「困ったおじさん」が生まれるワケ

このようなケースは、平田さんの会社に限ったことではない。

私は、40代のリーダーたち向けの講演会やセミナーの講師を勤めることがあるが、以前にもまして、同様の悩みを訴える管理職が増えた。学ぼうとしない、理解しようとしない、自分のことしか考えない、会話しようとしない……などなど、“年上部下”の「ないない攻撃」に辟易しているのだという。

男は彼の空のポケット
写真=iStock.com/Devenorr
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その一方で、私は多くの“年上部下”たちへのインタビューも行っている。そのため、「ないない攻撃」に出る気持ちがわからないわけではない。なにしろ、会社はさんざん競争を煽っておきながら、突然年齢で区切って、一斉にそれまで獲得してきた役職、裁量権、収入を奪うのだ。しかも、いったん戦力外扱いになると、どんなに頑張っても給料はびた一文上がらない。

彼らに共通するのは「役職をもぎ取られた感」で、そんな感情を抱く自分にも嫌気がさしている。

そう、彼らはみな能力主義社会の勝者、「メリトクラシーの勝者」として、高い学歴、高い収入、高い社会的地位などを獲得してきたはずなのに、それらに付随する権力におぼれ、依存し、今や「困ったおじさん」に成り下がっていた。