HOPEを取り戻せ
私はこれからの時代の鍵を握るのは、人々の心の奥底に眠る「HOPE」の復興にあると信じている。収入でも肩書でも勤務先でもない、50歳からは半径3メートル世界に、あなたが幸せになるためのヒントが隠されている。
そんな思いを込めて、今回、『THE HOPE 50歳はどこへ消えた?』を上梓した。健康社会学者としての知見、および、約900人の会社員にインタビューをしてきた事例をもとに、サラリーマンの「パラダイム・シフト」を提案している。ぜひ同書をご高覧いただきたい。
HOPEは直訳すると「希望」なのだが、日本語で言う希望とは、若干ニュアンスが異なる。
「希望がある」と言うと、「頑張れば必ず報われる」「未来にいいことがある」など、期待感や可能性を示す使われ方をする場合が多いが、対してHOPEは「逆境やストレスフルな状況にあっても、明るくたくましく生きていくのを可能にする内的な力」のこと。シンプルに言えば、「前向きに生きようとする意思」であり、「あきらめない力」のことだ。
HOPEは、「共に生きてくれる他者」の存在により引き出され、日常で経験する小さな喜びや楽しみによって高めることができる。
HOPEはあなたの周りにいつでも存在している
「情けは人の為ならず」というが、人に情け(=愛)を尽くせば、巡り巡って自分にいい報いが返ってくる。そして「情け」とは、一人の人間として他人を思いやる心にほかならない。
私が在籍した研究室(東京大学大学院医学系研究科健康社会学教室)で一般の成人男女300人を対象に行った調査でも、自分を大切に思ってくれる人、信頼できる人がいることでHOPEが強まる傾向が確認されている。一方で、HOPEと経済的なゆとりとの関連性は認められていない。
おそらく今後、さらに経済的格差が拡大し、効率が優先される社会風潮が強まるだろう。努力しても報われず、人々は理不尽な社会システムに翻弄され、自分の存在意義さえ失いそうになるだろう。「この社会には希望がない」と「私」たちは嘆くかもしれない。
しかし、そんな時は、大きく深呼吸をして周りを見渡してみるといい。しばらく連絡をとっていなかった友人に電話をしてみるといい。それだけで何かが変わる。心に風が吹き込むことになる。
日々の忙しさの中で、他人の存在やつながりの大切さを忘れてしまうことは度々あるものだ。時々、立ち止まって思い出して欲しい。そして、仕事との向き合い方、働き方に悩む50歳だからこそ、仕事が「私」という存在を支える太い柱であることを、どうか忘れないでほしい。
HOPEは、いつでもあなたの周りに存在している。そのことに気づくか、気づかないかだ。