[ロンドン発]国内での外国スパイの摘発、国家機密の漏洩阻止などの防諜活動を行う英情報局保安部(MI5)が13日、英下院議長を通じ、ロンドンを拠点に活動する中国人弁護士クリスティン・リー氏が中国共産党中央統一戦線工作部(中央統戦部)の意向を受け下院議員に近づき影響力を行使していると全下院議員に対し、異例の警告を行った。
日米欧議員らが中国の人権弾圧を監視する「対中政策に関する列国議会連盟」設立を主導し、中国の制裁リストに加えられたイギリスの対中最強硬派イアン・ダンカン・スミス元保守党党首は「中国政府のエージェントと疑われるリー氏は英議会を狙って中国共産党のために議員や政治団体に関与し、政治的に干渉している」とツイートした。
「私は中国政府から制裁を受けている。その国のエージェントが英議員と協力して議会のプロセスを妨げるために活動していることは非常に憂慮すべきことだ。中央統戦部に代わって政治的干渉に従事している外国の卑劣なエージェントが何もされずに活動できるのはどういうことなのか」とリー氏と親密な関係を持つ議員の調査をジョンソン英政権に求めた。
保守党内で「中国研究グループ」を主宰する下院外交特別委員会のトム・トゥーゲントハット委員長も中国政府の制裁リストに加えられた。トゥーゲントハット氏は「わが国の情報機関は国家的脅威に焦点を当てているが、当然のことだ。北京の工作が増大しているのは明らかで、敵対活動から民主主義を守る必要がある」とツイートした。
中央統線部とは
MI5の警告文書によると、中央統戦部は中国共産党の主張を広げる一方で中国共産党の政策に敵対する勢力に対抗するため、虚偽や賄賂、脅しなど硬軟織り交ぜた方法で相手国の政治家や有力者に近づいて親密な関係を構築する。手なづけた協力者に中国共産党の主張に沿った言動をさせたり、都合の悪いことには口をつぐませたりする部局だ。
元陸上自衛隊幹部学校長(陸将)の樋口譲次氏は論文「海外に魔の手を伸ばす中国の『統一戦線工作』」の中で、中央統戦部は中華人民共和国建国7年前の1942年に設立されたと指摘する。最もよく知られた統一戦線工作は抗日民族統一戦線としての中国国民党と中国共産党による「国共合作」で、現在では中国文化を普及する孔子学院もツールの一つだ。
樋口氏によると、習近平国家主席は2015年「統一戦線工作条例」を制定。中国共産党創設100周年の21年を中間目標に、建国100周年の2049年を最終目標に「中華民族の復興という中国の夢」実現のため「統一戦線工作」を通じて香港や台湾、チベット自治区、新疆ウイグル自治区、南シナ海、東シナ海問題に関して中国の身勝手な言い分を広めている。