東大医学部は臨床の腕を磨くのに適した環境ではない

臨床の腕を磨くにも東大医学部は決して適した環境ではない。教授になるのは、大した研究業績もないものの、論文の数だけは多い人であり、天皇陛下の手術の際も問題になったように臨床の腕のいい人が教授になることはめったにない。

残念ながら医者というのは、師に恵まれないとあまり臨床の腕は上がらない。

私が老年精神医学の分野でそれなりに自信をもてるのは、浴風会病院(東京都杉並区)という高齢者専門の総合病院で故竹中星郎先生という老年精神医学の第一人者のもとで学ぶことができたからだ。

2004年に導入された臨床研修制度も東大医学部卒の価値を下げた。この制度により、どこの大学医学部を出ていても、好きな研修先(病院)が選べる。東大を出ていないと研修できない病院などなくなったのだ。

希望した病院の研修医の応募が多い場合、選抜の試験が行われる。この際、大学在学中の成績が重視されるので、東大より偏差値の低い大学で優等生のほうが、東大の劣等生より、希望した研修先に入りやすいとされる。

ということで、東大医学部は現状、研究も冴えない、臨床の腕も大して磨かれないダメ組織という側面が強い。しかも、医学部では「金儲けに走るのは恥」といった古い価値観を植え付けられるので、大病院の経営者になったり、起業したりしてリッチになろうとする人も少ない。

医学部を希望する受験生に対して、東大を勧める気になれない。だから、私も自らが主宰する通信教育や進学塾で、医学部受験希望者に対しては無理せずに実力に見合う大学に入ったほうがいいと指導している(たまに、親のブランド志向がひどくて、指導に従わないで1年を無駄にする人もいる)。

秋の東京大学
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「医学部人気」が沸騰中だが、医師の未来は明るくない

近年沸騰している受験生の間の「医学部人気」そのものにも私は疑問を感じている。

とくに首都圏以外の地方では、成績優秀な生徒が医学部を志向する傾向が強まっている。例えば、鹿児島のラ・サール高校は1985年に117人の東大合格者数を誇ったが、2021年は33人。しかし国立大学医学部合格者数は毎年80人から90人のレベルへ上昇した。私が卒業した灘校でも国公立大学の医学部の合格者数は増え、2021年で63人に達した。

地方では、成績のいい子は東大(文系含む)に行くより、国公立大医学部を選択する流れができつつある。その背景にあるものは何か。

東京に住んでいると、いわゆる六本木ヒルズ族には東大出身者が多いことを知ることになり、東大卒業後の成功モデルを実感できる。だが、地方にいると、東大に行くよりも、地元の国公立大の医学部を出て医者になるほうが安定的に高収入を得られるイメージが強い。最近のように政治家に逆らえず、不祥事が続く官僚の姿が報じられることが続くと、なおのこと東大への憧れは低下する。

頭のいい高校生はどうか視野を広く持ってほしい。進路は医学部でなくてもいいはずなのだ。医師より社会的地位が高く、安定して稼げる職種に就くことも十分に可能なのだ。