医師国家試験合格者は毎年9000人、いずれ医師余りになる

ここ数年、医学部ではない理系の研究者が昔と比べ物にならないくらい高収入を得る道が開かれているのに、そういう情報が地方に届かないのかもしれない。それを危惧した母校・灘校では、各方面で成功した卒業生が在校生に講演する会を定期的に行っているという。

私はこの20年以上にわたって一橋大学で医療経済学を教えているが、医者の将来が明るいものと思っていない。

医療費のほとんどが保険診療で賄われているため、政策的に「伸び」が抑えられている。それにもかかわらず、医師国家試験合格者は毎年9000人もいる。さらに今後、AI(人工知能)が進歩すると、いずれ医師は負かされるケースも出てくる。現在、多くの医師は患者への問診より、検査データや画像データを重視した診察をしている。そうなると診断能力や治療方針を決める能力においてAIに到底勝てないのだ。

先ほど東大医学部の閉塞性を指摘したが、ほかの医学部も似たり寄ったりだ。例えば、教授会での選挙で決まる精神科の教授で、私のように精神療法を専門とする医師が選ばれている大学は現在ひとつもないのはそのいい例だ。医療の中で「心の問題」が軽んじられているのだ。

これはとりもなおさず、医学部在学中の6年間に心にまつわる講義がほとんどない(精神科の講義でも神経伝達物質など脳にまつわる授業がほとんどになる)ことを意味する。

白衣を着た医師が腕を組んでいる
写真=iStock.com/makotomo
※写真はイメージです

今回のコロナ禍でも、感染症学者が“自粛一辺倒”の方針を出すのに対して、大学の医学部から「これではうつ病が増える」とか、「高齢者の歩行機能や認知機能が落ちるリスクが高い」とかいった反論の声はほぼ皆無だった。

歯科医業界では勤務医が低賃金化し、開業医もその多くが経営に四苦八苦している。同じような道を、医師が歩む可能性がある。収入面でも医学部の未来は明るくなく、自由もなく、世界的研究の夢もない。これなら医学部を除いた、最先端の理系研究者になったほうがはるかにいろいろな面で有望なのではないか。

受験生のうつ状態の予防の観点から、私は声を大にして言いたい。

医学部に行かなければいけない、というのは幻想である。

ほかにもはるかに有望な道がいくらでもある。

医学部志望者(とくに東大を筆頭とした名門国立大学の医学部志望者)がもし勉強でいきづまっていると感じるなら、チャンスだとさえ言える。視野を広く持ち、自分の進路を考えてみてほしい。

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