得票率14.8%だった緑の党から“素人外相”が誕生
ドイツに新政府が発足してからすでに1カ月が過ぎた。16年の長きに亘ったCDU(キリスト教民主同盟)のメルケル政権を引き継いだのは、社民党(SPD)のオラフ・ショルツ政権。緑の党、自民党(FDP)との3党連立政権である。
社民党は言うまでもなく、社会民主主義を信奉する人たちの政党だ。緑の党は、今では環境党のような顔をしているが、元はと言えば新左翼の流れを汲むかなりの左翼。今も外は緑だけれど中身は赤く、スイカとも言われる。つまり、この2党を見る限り、EUの真ん中に左寄りの政権が誕生したことは間違いない。ただ、3つ目の自民党は、自由な市場経済を重視するリベラル党で、信条としては保守。元々緑の党とは反りが合わない。つまり、3党がどのように折り合いをつけていくかが新政権の課題でもある。
さて、この政権内で無視できない力を振るっているのが、実は緑の党だ。先の総選挙で、緑の党を率いて戦ったのは、ダブル党首の一人であるアナレーナ・ベアボック氏(41歳・女性)。選挙戦中にスキャンダルが出たこともあり、得票率は14.8%にとどまったが、それでも政権には滑り込んだ。そして、蓋を開けてみたら、政治経験の浅いベアボック氏が、いきなり女性で初のドイツ外相に就任。そんな素人が欧州の重要国ドイツの外交を担えるのかと不安を覚える国民は多い。
怖いもの知らずの言動に中国側が反発するほど
しかし、目下のところベアボック外相は健闘している。まだ正式に政府が発足していなかった昨年11月、早くも彼女は中国には妥協のない態度で臨むと公言し、北京五輪の外交的ボイコットにまで言及した。さらに12月の日刊紙「ディ・ターゲスツァイトゥンク」のインタビューでは、「雄弁な沈黙は長期的には外交ではない。たとえ、これまで多くの人がそう思っていたにせよ」と述べて、皆を驚かせた。
雄弁な沈黙というのは、多弁でありながら言うべきことは何も言っていないという意味だから、これまでのメルケル政権の親中路線に対する痛烈な批判である。メディアと国民が偉大な政治家と持ち上げるメルケル前首相にここまで盾突くとは、怖いもの知らずというか、自らの理念に忠実というか。ちなみに新政権の施政方針には、南シナ海、台湾、香港、さらに新疆ウイグルなど各種中国問題がてんこ盛りだ。